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コミュニケーション力 座談会

「職業研究」2011年秋季号より(抄録)

コミュニケーション力 座談会

「いかに円滑で効果的なコミュニケーションを行うことができるか」は、現在、企業の人材マネジメントにおいてのみならず、学生や教員等学校教育現場にとっても関心が高いものになっており、社会における重要な課題と考えられていると言えます。こうした中、対人関係とコミュニケーションをめぐる現状や課題と、仕事上必要となる社内的/対外的コミュニケーション・スキルを高めるためにどういった対策をとったらよいのかについて、新刊『コミュニケーション力―人間関係づくりに不可欠な能力―』(雇用問題研究会刊)の著者である渡邊忠、渡辺三枝子の両氏と、企業の現場で人材開発に携わる株式会社山武の馬場雅史氏をお迎えし、お三方で率直にお話し合いいただきました。(抄録)

渡邊 忠氏
渡邊 忠氏
社団法人日本産業カウンセラー協会参与
東京大学文学部心理学科卒。上智大学カウンセリング研究所専門カウンセラー養成課程修了。元・財団法人鉄道総合技術研究所研究主幹。前・文教大学人間科学部教授。現・社団法人日本産業カウンセラー協会参与、東日本旅客鉄道株式会社安全研究所技術アドバイザー、文教大学人間科学部非常勤講師。


渡辺三枝子氏
渡辺三枝子氏
立教大学大学院特任教授
上智大学大学院博士課程(心理学専攻)単位満了。米ペンシルバニア州立大学大学院博士課程修了。雇用職業総合研究所(現・労働政策研究・研修機構)職業適性研究部第一研究室長を経て、明治学院大学文学部教授、筑波大学大学院人間総合科学研究科教授、同キャリア支援室長を歴任。現・立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授。専門はカウンセリング心理学、職業心理学、カウンセラー教育。


馬場雅史氏
馬場雅史氏
株式会社山武人事部キャリア開発グループマネージャー
大学卒業後、株式会社山武入社。人事部に配属され、以来、採用、人事、労政、人事企画、海外人事、カンパニー人事に携わり、現在は研修全般の責任者を務める。2級キャリア・コンサルティング技能士、賃金管理士。
■コミュニケーションをめぐる課題

渡辺 産業界の人による「最近の新入社員」関連の調査で、トップに挙がるのがコミュニケーション力の不足ですね。それを受けてか、大学などでもコミュニケーションのハウツーを教える講座がはやっています。しかし、はやっているわりには「コミュニケーション力」といっても具体的に何を指すのかについては、はっきりとした回答が得られないことが多いです。
確かに先ほど言われたように、世の中、あうんの呼吸で動いているときは、コミュニケーションなんて言わなくてもよかったわけですね。いま、注目されるようになっているというのは、やはりパソコンの影響も大きいかもしれません。人と人が対面して 話す力を育てるチャンスが失われている。組織は人の集まりですから、企業にとっては重要なことですね。

馬場 若手社員は、「自分たちを成長させてほしい、認めてもらいたい、声をかけてもらいたい」と内心では思っていますが、それは上司がやるものだと思っているんですね。上司は若手社員のほうから言うものだと思っていて、お互いに遠慮し合ってしまっている。
採用面接では、「御社では自分を成長させてくれる仕組みはありますか」という質問が多いです(マニュアルに書いてあるのかどうか知りませんが)。マネージャーには部下の教育をしっかりやってくれと言っていますが、「昔は自分でやっていた、当たり前のことだ」と彼らは言うんですよね。

渡辺 「就職すれば、企業は自分を成長させてくれる」とか、「自己実現させてくれる」という言葉自体が、非常に危険なものです。大学側の責任でもあると思いますが、あと1年頑張ればチャンスはあるかもしれないのに、「自分を成長させてくれない」と言って、新卒者がすぐ辞めてしまったりする。「新しい場に入って新たな経験の中で新たな発見をするのはあなた自身しかいない」、「いくら上司が教えてくれてもあなたがそれを受け止めないと発見することはできない」ということをキャリア支援をする人は、あまり教えていないように思います。「働くというのはお金だけじゃない、自分を成長させてくれる」とは言うものの、それは誰かがやってくれるんだろうと思ってしまっている。

馬場 情報が速く、しかし中途半端に流れてくるということもあります。「会社に入って生まれて初めて叱られた」と誰それが言ったという情報があっという間にその上司の耳に入ったり。すると上司は、「そうか、今の人は叱られることがないんだ、じゃああんまり強く叱れないよね」となったりする。自分の考えより周りの情報を聞いてお互いおっかなびっくり接するようになり、真意がつかめない。最近そういったことが多いような気がしますね。
昔は真意をつかむ意味で「飲みニケーション」というのがあり、本音を言える「場」があった。「真意はそうだったのか」とその場でわかり合って、次の日また仕事にかかっていく。今はほとんどありませんね。

■相手がどういう人間なのかをわかり合うこと

渡邊 お互いの背景をどこまでわかり合っているかが、非常に大事です。背景がわかっていれば、「あいつがこういう言葉を使うときはこういうことだ」とわかるし、いちいち頭にきたりしないで済む。どういう家庭環境で育ったとか、今家族でどんな問題があるかといったことは、飲んでいる場では結構しゃべっているんですよね。昔の会社というのは時間的な余裕があった。今は「結果を出せ」とビジネスライクになっていて、そこだけで勝負みたいになっている。
「お互いがどういう人間だったか」「彼はこういう考え方をする人だ」とか「親御さんにこういうふうに育てられたんだよね」といったように、その人間にどういう背景があるかということを若い人について理解する必要があるし、先輩に対しても「そんなに苦労していたのか、だからあんなにぶっきらぼうな言い方なのか」とわかると、多少叱られても受け止めることができる。今はそうした背景部分の共有ができなくなっています。やっぱり人間というのは、納得いかないこと、よくわからないことなどがあると、まず「えーっ」とか「なんだよー」と感情が動いてしまう。そうすると正常なコミュニケーションがとりにくくなってしまう。普通に言ったことでも曲がって受け取ってしまうし。
世代間のギャップも、コミュニケーションのノウハウだけでは実際の職場では通用しません。人のつながりの希薄化と言われていますが、「お互いがどういう人間なのか」、「どこが自分と違うのか」というところでわかり合っている部分が少なくなっているのだと思います。あうんの呼吸というのは、その部分があるんですよね。「あれ」と言って「ああ、あれね」とわかるためには、お互いが何を考えていてどういう仕事の仕方をしているのかをわかっている必要があるわけです。

渡辺 「その場に一緒にいるという意味での人間関係」が軽視されている。仕事上のことだけでつながっていればうまくいくということはありえません。パソコンがない時代は、書類を上司に持っていって、その場で叱られる、その叱り方、注意の仕方で、否応なしに個人的な接触をするところがあって、「あの上司は気が短いけどいい人だ」とか「親切な人だ」とか、話をするうちに気づくわけですね。この経験から、だんだん相手に対する話し方も選んでいけるようになります。今はパソコンなので、個人的接触がない。それを補うような教育、研修が必要です。

渡邊 コミュニケーションとは、基本的には人間と人間がどれだけわかり合うかであって、いかに共通理解をしていくかということです。そのときに背景も含めて考えなくてはいけない。
今度の本にも書きましたが、人と人とが対面して行うコミュニケーションには、知的な、事柄的な領域で済むコミュニケーションと、感情を伴う部分(「こっちの気持ちをわかってよ~」というようなこと)、そして期待や意図の部分(「本当はこうしてほしいんだけどな」というようなこと)が混在しています。それぞれの領域をうまく聴き分け、しゃべり分け、そして自分の気持ちを説明するなどの工夫をしていかなければいけない。企業でもそうした聴き取りや表現の訓練などをやられているのではないかと思いますが、いかがですか。

馬場 ロールプレイなどもやってはいるのですが、その場だけで、職場に帰ってくると元に戻ってしまう、という感じです。本当は説明しなくてはいけないところを、「あとはメール入れとくよ」で済ましてしまう。メールで文章になると、背景や感情、ホントは何を言いたかったのか、などがわからなくなってしまいますね。楽だから使っていますが。

■お互いを知る機会をつくる

渡邊 私が関わっているある企業の研修の例をお話ししましょう。今その職場で問題になっているのは、みんな蛸壺に入っちゃうことだ、と。一人ひとり自分の職務はきちんとこなすけれども、互いの連携がうまくとれない。「それ、おまえの仕事じゃないか、おれの仕事じゃないよ」と。みんなパソコンに向かっていて、直接話すことが少ない。職場がギスギスしてきてしまい、聴き方訓練、話し方訓練などをやってもダメだ、何とかならないか、と。そこで、生で毎日顔を合わせている人同士で丁寧にコミュニケーションを体験させる、ということで、隔週1回とか月1回、2~3時間くらい、セクションごとに全員集めてフリートーキングする時間を強制設定しました。
その場では、日頃の「おかしいんじゃないか」とか、「あの情報はどうして私のところに届かないのか」といった、仕事の中身よりもやり方、決め方の部分や、もやもやした状態のものを、とにかく出す。何か問題提起したら、まず「それはどういうことなのか」とか「そういうことがあったのか」といったことを話す、「みんなで聴こう会」なんです。何度かやっているうちに、日頃溜まっていたものがうわーっと出てくる。「こんなこと言ったら誰かから怒られるんじゃないか」と思って最初はなかなかみんな言わないですけど、10人いれば1人くらい突破口を開く人がいる。話題は限定せず、上司がいるところでフリートーキングする場を強制的につくってしまうわけです。それも勤務時間内に。お互いに何を考えて仕事をしているのかということを実際の場でシェアする。

渡辺 就職活動のときも、大学で答え方を教えているでしょう。「必ず『あなたの強みは?』と聞かれるから、聞かれたらこう答えるんだ」とか。そのため、ちょっと違った質問がくるとオタオタしてしまう。教える側がマニュアル化してしまって、育てようという発想がない。企業に入ったら上司とどう口をきくか、なんてことになって困るだろうと心配になりますよ。でも、教育の仕方で学生はわずか1年ですごく伸びるんですよね。コミュニケーション能力を向上させることについて、学校教育の現場がハウツーばかりにとらわれているということがすごく問題です。考える力とかほかの人の考えを受けて自分の考えをどう出すか、その根本を習わないで、言い方だけを習う。人の話を聞いたら、「素晴らしいですね」「いいお話を聞きました」とまず言いましょう、とかね。大学の人間より企業の人のほうがはるかにコミュニケーション能力が高いと言われています(笑)。

馬場 採用選考で、グループに課題を与えて何人かで話をさせるというやり方が増えていますが、その際に、議論にならないと言います。似たような意見ばかりで差がないらしいのです。あえて反対の意見を出す人がいない。「いい意見ですね。私も同じように考えていました」とか。グループディスカッションにならない。

渡辺 コミュニケーションとは何か、なぜ改めて必要になってきたのか、ということを認識したうえでどういう方法をとるか新たに考えなければいけないと思います。技法、言い方だけで済むものではありません。われわれも見本を示していかなければならない。今度の本では、多少専門的かもしれませんが、その辺のところを渡邊先生にきちんと書いていただいています。

(座談会の全文は「職業研究2011秋季号」に掲載されています。)

コミュニケーション力 ―人間関係づくりに不可欠な能力―
 渡邊 忠・渡辺三枝子 著(A5判/216ページ/定価 2,100円)