キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2006年1/21号より

キャリアOne 代表
水町真樹子

 

 「こんな会社、もう辞めよう」誰でも一度くらいは思ったことがあるでしょう。その原因は何でしょうか。転職したいと思ったことがある女性社員を対象に調査したことがあります。1位は人間関係の悩みでした。
 そして、職場環境(残業時間や通勤距離、給与等の条件)、仕事内容と続き、ほぼこの3つの理由に絞られます。カウンセリングで聴いてみると、人間関係の悩みは、他の理由にも影響を及ぼしたり、転職によって環境を変えただけでは解決しないことが多いばかりか、メンタルケアの対象になることが多いのです。
 具体的なケースをご紹介しましょう。Tさんは、35歳男性で中堅の旅行代理店に勤め、3度目の転職を考え始めた時にカウンセリングに来ました。転職理由をたずねると、いずれも「自分のイメージしていた仕事内容と違うから」ということでした。
 1社目は大手旅行代理店で、明るく人懐っこい印象を与える彼は、1年目に同期で1番の営業成績を収め、その後も毎年優秀な成績で、誰もが一目置くような感じだったそうです。しかし、決められた旅行プランを販売する方法で、仕事の満足感はなく、もっと個人の裁量を生かせるような仕事をしたくて、28歳で転職。2社目は小さな代理店を選びました。ところが、裁量権はあるものの、小さい会社なので、それこそ事務も雑用も全てこなさなければならず、営業に集中できる環境ではないと、1年半で転職し、3社目の中堅の代理店で5年が経ちました。4年目から営業課長として、部下も持つようになりましたが、現場に出て行く回数が減り、仕事への興味が薄れてしまったようです。そこでもう一度、小さい会社に移りたいと考え、今度は年齢的にもマネージャーとして採用されるので力を発揮できそうだ、ということでした。
 いかがでしょう。次の転職はうまくいくでしょうか。表面的には転職希望理由の3番目、仕事内容が原因のようです。また本人の自覚もそうでした。ところが、カウンセリングを進めるうちに、別の原因も浮かんできました。それは、『同僚との関係』というものでした。1社目は優秀なゆえに、常に人から意識されているように感じられ、2社目では、自分にもっと営業活動をさせてもらえれば会社の業績も上げられるのに、なぜ成績の出せない同僚と同じ雑用をしなければならないのか、疑問だったそうです。今は同僚だった人を部下に持つことになり、気まずい感じがあるそうです。いずれも、相談相手もなく、同僚と腹の探りあいという中で、だんだん孤独感が強くなり、仕事のモチベーションも上がらなくなり、思い切って環境を変えようと転職に踏み切ってきたということがわかってきました。
 これでは、次の転職もいずれ同じ壁にぶつかってしまうことは、みなさんも感じられると思います。しかし、当の本人は別の原因には気づきにくいので、このまま本人の希望通りに転職しても、転職を繰り返すばかりか、メンタル面で不安定になる可能性もあります。実際このケースでも、実は孤独感の強さが相当なストレスになっていました。これまでは、同僚ばかりか友人にも、仕事の悩みを話すということはしなかったそうです。してはいけないと感じていたと言います。ですから、部下の悩みを聞くこともなかったようです。いきなり、他人まして同僚に自分の弱みを見せるのは難しいので、上司の役割として、まず部下の悩みを聞くことを実施してもらいました。このことにより、部下を励ます時に自分の悩んだ経験を話すことができるようになり、少しずつ孤独感は薄れていったようでした。
 ひとまず、メンタルケアの第一歩は成功したように見えましたが、やはり、彼は転職を決意しました。次回は、再就職を決める際に誰にでも起こる不安感にどう立ち向かうかをご紹介します。

*ケースの開示に関しては、個人の特定ができないよう配慮し、かつ本人の承諾を得ています。

 
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