キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2006年2/21号より

キャリアOne 代表
水町真樹子

 

 さて、カウンセリングによって転職理由は『仕事内容』だけではなく『人間関係』にも重要な要素があったことが明らかになってきたTさん。だんだんと自分の悩みを人に話せるようになり、職場での孤独感は随分と薄れてきたようでしたが、やはり、当初の希望通り転職することとなりました。
 ところが、転職活動もうまくいき、いよいよ内定という段階にきて、Tさんは不安感を口にするようになりました。「次こそ、自分に合った仕事と職場にめぐりあえますよね」35歳という年齢と3回目の転職ということで、もう繰り返せないという焦りも出てきたようです。
 こんな時、カウンセラーは何と答えればよいのでしょうか。「大丈夫ですよ」と励ますのか、「あなた次第ですよ」と突き放すのか。気持ち的には、励ましてあげたくなります。でも恐らく、どちらも違うのだと思います。私自身、いつも迷ってしまいますが、できるだけ、相談者の方と一緒に考えるようにしています。ですから、「そのように感じてしまうのは、なぜですか。どんな気持ちなのですか」と、心の中のもやもやとした不安感を言葉で説明してもらうようにしています。もちろん、相談者の状態によっては、そういうことはできない時もありますので、よく見極めなければいけません。例えば、非常に心が不安定な状態の人には、この質問はきつ過ぎるということになります。幸いTさんは、既にご自身の人間関係の問題も前向きに受け止め、自分で行動に移せるところまできていたのでこの質問は正解だったようです。
 「自分は、カウンセリングに来るまで、仕事内容が自分に合わないのだと信じて疑いませんでした。でも、もちろんそれもありましたが、その問題以前に、自分自身の問題と向き合っていなかったんです。もしかしたら、自分のことがもっとよくわかっていたら、最初の職場で、今頃もっと充実した仕事をしていたかもしれません。次の会社が今より良いかどうかわからないですし。もしかしたら、今の方が良いかもしれないですし。 今は結構人間関係も上手くいくようになってますが、次もうまくいくとは限らないですよね」
 Tさんに限らず、転職の時には誰でも出てくる気持ちです。この時こそメンタルケアに注意しなければならないのです。時々この問題をそれほど深刻に考えないクライエントもいますが、不安と向き合ってしまったTさんは、この問題をクリアしなければなりませんでした。
 さて、みなさんはどのようにカウンセリングしていきますか。Tさんの発言を読み返してみて下さい。必ずクライエントの言葉の中に、ヒントがあるはずです。
 転職時の不安、と一言で言っても中身はいろいろです。Tさんは人間関係だと言っていますね。ですからそこに注目していきます。Tさんは確実にカウンセリングに来る前より自己分析ができるようになっています。それは素晴らしいことです。自分のことがわかる人は他人の気持ちもわかり、人間関係を良くすることでしょう。ですから、少し遠回りのようですが、カウンセリングを振り返って、Tさんが自己分析ができるようになったこと、またそれをTさん自身が気づいていることを指摘します。そして、上手くいったことは次も上手くいくであろうことを自分で気づいてもらうようにします。
 漠然とした不安、それにどう向き合うか、とても難しい問題ですが、できるだけ焦点を小さくすることで解決の糸口が見えてきます。
 今回ご紹介のケースはTさんがとても落ち着いていたのでうまくいきましたが、最終回はそうではないケース、少々パニック気味のクライエントに接したケースをご紹介して私達キャリアカウンセラーのメンタルケア領域を考えます。

*ケースの開示に関しては、個人の特定ができないよう配慮し、かつ本人の承諾を得ています。

 
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