キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2006年3/21号より

キャリアOne 代表
水町真樹子

 

 早いもので最終回。最後は、私達キャリアカウンセラーがメンタルケア領域にどのように対応していけば良いか、考えていきたいと思います。
 相談者はHさん28歳女性。転職相談に来た時の第一印象は、はきはきとしゃべり、受け答えもそつがなく、頭の回転の速い人なんだろうなという感じでした。ところが、就職してからの仕事の状況、彼女の置かれている環境はわかるものの、転職理由は何なのか、悩んでいる素振りもないのです。このまま彼女の話を聞いていても相談時間は終わるでしょうが、それでは解決の糸口は見えてきません。
 基本はクライエントの言葉にヒントを探しますが、今回のように彼女が触れない話題に何かある場合もあります。今回のケースでは、「仕事は充実しているようですね。上司も信頼してくれているでしょうね」という言葉に彼女は反応しました。
 「上司は自分の努力を何もわかっていない。自分ばかりが仕事を押し付けられる。何か失敗すると自分の責任にされる。逆に手柄は横取りされる。こんな会社辞めたいんです」話しているうちに気持ちが高ぶってきて涙が出て、声も高くなり、明らかに今までとは違っていました。そして、「最近眠れないんです。帰りの電車でわけもなく涙がでてしまったりするんです」さあ、メンタルケアの領域のようです。「これってうつですよね。でも、うつだと知れたら、転職もできないと思うのです」しゃべるスピードも早くなりエスカレートしてきました。顔は紅潮し、パニック気味に見えました。「どうして眠れないのでしょう。理由はありますか」こんな質問をしても、前回のTさんのように自己分析ができる状態ではありません。もちろん私達は専門家ではないので、これ以上メンタルケア領域に立ち入ってはいけません。こういう時は、寄り添うことが大切です。彼女の言葉を繰り返して、こちらが理解していることを伝えます。そして落ち着くのを待ちます。時間だからと打ち切ってはいけませんし、まして「病院にいくべきですよ」と突き放してもいけません。
 「うつだと思うんですね。でもうつかどうかは私は専門家ではないのでわからないのです。うつが心配だったら、病院を紹介しますから、安心して下さい。うつだから、仕事ができないことはないですよ。もちろん治療のためにお休みする必要はあるかもしれませんが、それは他の病気、風邪で熱が出ても同じですよね。熱があるときに仕事をしても良い仕事ができないのと同じです」という内容をゆっくり伝えていきました。
 そして、一緒に考えるパートナーであることをわかってもらいます。幸いにも彼女はうつ病ではなく、病院には行きましたが、精神安定剤を2週間ほど飲んだだけで、私とのカウンセリングを続けることができました。その後も何度か、涙を流す場面はありましたが、転職に向けて考えられるようになりました。
 『この人大丈夫かな、精神的に不安定だな』そういう場面に出会うことは多いと思います。その時、私達はどう振舞うか。見過ごせば、深刻な状況になってしまうかもしれません。逆に、病気だと決め付けて専門家への紹介を急げば、クライエントは傷つき、心を閉ざしてしまうかもしれません。誰でも、落ち込んで涙を流したり、気持ちが高ぶってしゃべってしまうこともあります。そのことを忘れずにカウンセリングを続けていくことが大切なのではないでしょうか。カウンセリングの場面で涙を流すことは、普通のことだと私達が大らかに考えていかなければ、むやみにメンタルに問題ありというレッテルを貼ってしまうことになりかねません。その責任を忘れずに、今後も真摯にクライエントと向き合っていきたいと思います。
*ケースの開示に関しては個人の特定ができないよう配慮し、かつ本人の承諾を得ています。

*4月号からは、NPO「育て上げ」ネット キャリア開発事業部 主席研究員 橋本光生さんにご執筆いただきます。

 
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