キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2006年8月号より

ウエ・コンサルタンツ代表 
大手前大学教授
上級産業カウンセラー
上 篤

 

 私は現在「大学生のキャリア教育と社会人のキャリア形成支援」を講義やグループワーク、そして個別カウンセリングという形で実践しています。今回の「若年層の課題」に引き続き、「キャリア教育」「熟年層の戸惑い」「管理者の悩み」など現場で実感したことを述べていきたいと思っています。

 「強く願い続ければ、夢は必ず実現できる。自分らしい未来に向けた夢に挑戦してほしい……」と著名人が思いを語っている。
 一方「先生、わたし夢なんかありません。どうすればいいですか?」「せんせ、僕目標なんか持ってないわ。そやからボクあかんわ!」という声があちらこちらから聞こえてくる。
 夢や目標が見えているのは素晴らしいことだし、それに向かって頑張ってほしい。しかし自分のやりたいことが分からない若者のほうが多いのではないだろうか。しかもそれだけにとどまらず、夢や目標が抱けない自分を駄目だと卑下したり、罪悪感を持つ若者さえいるように思える。
 また、「自己分析」「自己理解」という言葉が飛びかっている。そして、これも自分の強みや興味そして価値観などが分からないことで自信を無くしてしまう若者も多い。
 しかし、果たして“本当の自分”が分からなかったり、夢や目標が見えないことはそんなにいけないことなのだろうか。
  アイデンティティやモラトリアムなど青年期の発達課題という視点からとらえてみると、「本当の自分や夢・目標が分からない」ということは若年層にとって決しておかしなことでも不思議なことでもない。むしろ、“夢症候群”や“自己理解症候群”にかかって、「分からなければいけないんだ」と思い込み、“夢をもてない”“本当の自分が分からない”自分自身を否定的にとらえてしまうことのほうが問題は大きいように思える。
  若者にとって大切なことは、そのようなテーマを追求し続けようとする姿である。「今は分からなくてもいいよ。あせらなくていい。少しずつ考えていこうよ」と言うと、考え込んでいる大学生たちはホッとした表情を見せる。
 若年層が問題意識を持ち続け、「自分自身に問いかける姿勢」をぜひ形成してほしいと思う。

 「質問ある人?」「違った意見を持っている人?」「4人グループになって話し合おう!」と授業の中で投げかけても、反応は鈍い。自分の考えを持っていない訳ではない。訊きたいこともある。それでも学生たちは黙っている。
 若年者の中で人間関係作りを苦手としているものは多い。コミュニケーション能力、特に話し言葉による自己表現や、集団の中の一員としての行動つまりリーダーシップやメンバーシップが不足しているように思える。ゲームやコンピュータ、携帯メールなどバーチャルの世界での関わりが多く、家族を含め生身の人間との交流があまりにも少ない。そのため、自分がどのように振舞ったらよいのか分からず戸惑ってしまうのであ る。
 介入しながら、授業でグループワークを実施する。終わった後、「自分の意見を皆が聞いてくれてうれしかった」「話合いって楽しいと思った。やる前はいやだったけど……」「ほめてもらうと自信につながる」そして「そうだとしたら、自分が先に人のことをほめることが大切だ」などの感想が出る。
 「体験」はいろいろなことを気づかせてくれる。表現することや聴くこと、ストロークの大切さに気づいてほしいと願いながらグループワークを行っている。

 
戻る 次へ

一覧に戻る