キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2006年10月号より

ウエ・コンサルタンツ代表 
大手前大学教授
上級産業カウンセラー
上 篤

 

 「どうして妻が『離婚したい』というのかわからない。納得できればいつでも離婚届に判を押すのだが……」と、60歳定年を迎えた団塊の世代であるAさんは嘆く。
 企業戦士として働き蜂のように働くことが“家族のためなのだ”と信じて疑わなかった夫。いざこれから妻と一緒にセカンドライフを楽しもうと考えていた矢先の離婚の申し出に、状況がよく飲み込めず呆然とするばかり。
 一方妻は、自分が何を望んでいるかを考えてくれようともしない夫や、自分の世界をどんどん広げていく子供達の中で、1人ポツンと取り残され「今までの自分の人生は何だったのか」と疑問を持ち、これからの人生について考えた末の結論が熟年離婚。  2007年問題に関心が集まっている。戦後のベビーブームで生まれた団塊の世代約700万人が定年を迎えた後の後継者の育成とともに、組織を離れた各人が会社人間から脱皮して新たな社会にどのように溶け込んで自立していくのか、がクローズアップされているのである。そしてまた、熟年女性の間で密かに“もう1つの2007年問題”としてささやかれているのが、離婚後の妻への厚生年金の分割。2007年から、夫の厚生年金について、妻が分割して受け取れるという状況の下で、これまで増加の一途をたどってきた離婚件数が減少しているが、妻の自立へ向けての“嵐の前の静けさ”だといわれている。
 果たして、2007年にはどのような事態が生じているのであろうか。それに対し熟年層は、転機や危機を迎えるにあたってどのような行動をとればよいのだろうか。
 会社にキャリア形成を任せてきた夫も、家族や旦那様のために生きてきた妻も、“自分らしい生き方”を改めて考え、自分自身のキャリアをデザインすることから自立は始まる。
 キャリアを考える際には、健康・経済・生きがいの3つの要素が重要となる。健康とは身体的のみならず精神的および社会的に良好状態が保たれた状態をいうが、特にストレスとうまくつきあうためのセルフケアがこれからの時代ますます必要となろう。
 退職や離婚による生計への不安も大きな課題である。長寿化による老後生活期間の長期化や、社会保障の支給減額と負担増など社会経済情勢が厳しく変化する中で、生涯を通じての経済生活を計画的に設計することは、自分らしい生き方を実現するために必要不可欠である。
 また会社を離れると、社会的地位低下や社会的存在意義喪失への不安が生じる。仕事仲間との関わりもなくなり孤独への不安も大きい。仕事人間であればあるほど喪失感は大きく、一方家庭内にも自分の居場所がないことに気づき危機状態になってしまう。

 危機に陥ったクライエントと相対するカウンセラーは、クライエントが自ら課題を解決できるための自助資源を増やすサポート、つまりその出来事の意味づけをどのようにするかという受け止め方・認知の仕方を変えたり、選択肢を広げて捨てられる価値と捨てられないものとの意思決定を援助するとともに、クライエントにとって他にどのような援助資源が存在するかを探索・発見することが重要な役割となる。
 そしてカウンセリングに際しては、ライフキャリアや内的キャリアの視点を忘れてはならないことはいうまでもない。
 
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