キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2006年11月号より

ウエ・コンサルタンツ代表 
大手前大学教授
上級産業カウンセラー
上 篤

 

 A研究課長は小さな声でボソボソと話す。「課長になって半年、最近朝早く目が覚めてしまいます。眠ろうと努力するのですが、仕事のことを考え出すとますます目が冴え、ぼんやりした状態で出社します。以前研究員だった時は仕事が面白かったのですが、管理職になると上司と部下との間に挟まれ、どうしていいかわからず、最近では会社に行くのが苦痛なのです。課長になんかならなければよかった……」と。
 Aさんは昇進に伴って発病する「昇進うつ病」。仕事の責任が重くなり、それに人付き合いなど不得意なこともやらなければならず、しかも弱音が吐けず一人で抱え込んで大きなストレスとなる。
 最近うつ病などメンタルヘルス不全の社員が増えている。成果主義を背景に異動、昇進、転勤や人間関係のもつれ、過重労働などが引き金になっていて、中高年男性の自殺が多発しているのに加え、30代の会社員にうつ病や神経症などの心の病が急増しているという。以前は個人の問題として片付けられていたメンタルヘルスケアが、「電通事件」以来、企業の安全配慮義務の範囲が災害や職業病の予防に止まらず、業務に関連して生じる心の健康問題などに拡大するとともに、組織のリスクマネジメントとして捉えられているのである。
 このような時代背景を反映し、組織としてメンタルヘルスケアについてどのように対処すれば良いかの相談が急増しているが、カウンセラーは単にクライエント個人に対するサポートだけでなく、組織に対する提言が求められていることを深く認識しなければならない。
 そして、ここでは組織内の仕組みとして3つのポイントを提案する。
  1. 組織内メンタルヘルス対策チームの整備
     職場ストレスに対する4つのケアがシステマティックに機能するよう、チーム作りを進める。メンバーは人事担当者、管理監督者、産業医など事業内健康管理担当者や時には労働組合などで構成し、病気休業開始および休業中のケア、職場復帰の可否の判断や職場復帰支援プランの作成、最終的な職場復帰の決定や復帰後のフォローアップを行う。それぞれのメンバーが、休業対象者の病気再発防止と無理のない職場復帰を目指し知恵を出し合う場とする。

  2. ライン管理監督者へのサポート
     職場でメンタルヘルスに注意信号がともったとき、一番大切なことは「いかに早く気づいてあげられるか」、つまり早期発見である。そして早期発見のキーパーソンは日常的に部下と接している職場の上司で、部下の問題にいち早く気づく立場にある。発見が早ければ早いほど対処は比較的容易になる。
  3.  管理監督者が“日ごろと違う部下の様子や心のトラブルを持つ者”に気づき、話を聴く場を持つなど速やかに行動がとれるよう「メンタルヘルス研修」や「傾聴訓練」を行うことが重要である。

  4. カウンセリングの仕組みの構築
     日常の人事労務管理の中で物事が解決すればいいが、必ずしもそうばかりとは限らない。直属上司に言いづらいこともあり、また上司自身が悩みごとを背負うことも多々ある。そのような時の駆け込み寺が「カウンセリングルーム」である。クライエントの課題はメンタルだけにとどまらずキャリアにも及ぶ場合が多いので、両方に対応できるカウンセリング体制が望ましい。

*12月号からは、有限会社エイチ・エヌ・シー 取締役 竹上晋太郎さんにご執筆いただきます。

 
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