キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2008年3月号より

立教大学大学院ビジネスデザイン
研究科准教授
コオプ教育コーディネーター
小島貴子

 

 私の連載も最後になりましたので、今私が1人の社会人として考えていることをお伝えしたいと思います。

私はこの2年間、新聞紙上で若者の仕事に対する悩み相談を受けてきましたが、その過程で感じたことがあります。それは、彼らの「悩み」とは、実のところ「不安」と同一物ではないかということです。

今の若者はバブル期を知らない世代です。物心ついた頃には既に景気は低迷し、右肩上がりの成長神話も消え去っていました。明日は今日よりもっといい日、といった楽観主義とは無縁で育ってきたのです。
 そんな彼らが最も恐れるのは「失敗」です。一度「失敗」したら敗者復活はないと思っているため、新しいことに挑戦してリスクを負うより、現状維持でそつなくいきたいと考えているようなのです。しかしそれでは、確かに挫折経験は減りますが、「失敗」に対する耐性も弱くなってしまいます。
 そのような彼らが学校を出て社会に飛び出したとき、「不安」でいっぱいになるのは当然だと思います。仕事は「大人のルール」で動いており、彼らは未知のルールに従って、見よう見まねで働く以上、当然、小さなつまずきや「失敗」が起こります。そしてその経験は、彼らにとっては自分自身を全否定されるほどの痛手なのです。「どうせ私なんか」と悩みを書き綴ってくる若者達は自信を失い、孤立感にとらわれていました。
 「悩み」=「不安」である以上、彼らが求めているのは「答え」より「安心」ではないかと私は思いました。そして、私が彼らの「不安」を「安心」に変えようとしたとき、気を付けたことが2つあります。
 
1つは、若者達と私とでは、価値観も文化も違うということを常に心に留め、理解できなくても否定はしないというスタンスで臨んだことです。

もう1つは、どれほど似通った悩みでも、相談者にはオンリーワン・メッセージで答えるようにしたことです。その人の横に立ったつもりで、視線の方向も高さも近づけた上で、私の目に見えたものを話そうと心掛けました。

言ってみれば、私がしたのは、悩みの解決でもカウンセリングでもありません。彼らの「不安」を真摯に受け止め、漠然とした「不安」を理由のある「不安」に置き換えて対処可能とし、「安心」を得るお手伝いをしただけです。職場の先輩や上司なら、同じ環境にいる者として、もっとうまくできると思います。

大切なのは、若者達の悩みを受け止める姿勢と、彼らにかける言葉を少しでも増やすことではないでしょうか。「否定しない」、「同じ視線に近づく」という姿勢を心掛けると、私達は自然と言葉を尽くし、丁寧に説明するようになります。
 また、職場の先輩や上司であれば、人を動かすのは頭で考えた理屈ではなく、具体的なイメージを伴った思いであることを経験から知っていることでしょう。「そんなことで悩むなんて社会人として失格だな」、「悩む暇があったら働いて覚えろ」などという理屈で人は動きません。自分は若い頃こんな経験をして、こんなことを学んだ、自分にはその問題はこんな風に見える、という話をしてあげられないでしょうか。そして、心の奥底で「彼らが失敗したら自分が引き受ける」という覚悟を持ってください。その受け止める姿勢と、引き受ける覚悟が、働き始めたばかりの若者達を一歩前へ動かし、育てるのではないかと思います。

彼らが彼らなりのやり方で生き生きと働けるように、先輩として上司として、是非手を貸してあげていただきたいと思います。それが、さらに後に続く若い人たちのために、幸せに働く道筋(キャリア)をつけることにつながるのではないかと思っています。

 
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