キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2008年9月号より

キャリアルネッサンス代表
長野マキ


 

Aさんの不満
 今の仕事に不満を感じているAさん。その背景には何があるのでしょうか?
 一緒に答えを探っていくと、「専門性が感じられない」ことに不満の原因があることがわかってきました。
 実はAさんは、専門性を身に付けるために、大学在学中から行政書士や社会保険労務士など、複数の国家資格を取得しています。ところが、今の職場ではそれらの資格がまったく活かせていないだけでなく、どう活かしたいのかというビジョンさえも持てないままに、悶々と仕事を続けてきました。「このままではいけない」という焦る気持ちと将来への不安から、現実的な目標として、専門性のありそうな企画職を目指すことにしたそうです。
さらに、「親が決めた会社」という点にも不満を感じていました。Aさんは、子どもの頃から進路選択などで、自分の意思というよりは、親が決めた人生を歩んできたという意識があり、いつもどこかで息苦しさを感じていたといいます。そのため、1日でも早く親から自立したいと考え、自活できる収入が得られて、かつ女性でもキャリアを積めそうな領域を模索しながら、就職に有利になりそうな資格にチャレンジしてきたそうです。
  ところが、カウンセリングが進んでいくと、この資格の選び方にも問題があることがわかってきました。Aさんは、無意識のうちに「親が喜ぶ資格」を選んでいたことに気付きます。そして、それが自分の価値観とは、少し異なるように感じ始めたのです。

「専門性」を活かして何をしたいのか考える
 そこで、より納得のいく選択ができるように、Aさんにとっての「専門性の意味」を掘り下げてみることにしました。すると、知識や技術を持って「人を助ける仕事」というキーワードが浮かび上がってきました。困っている人の相談に乗ったり、教えたりする仕事、教師や介護の仕事にも興味があることが見えてきました。また、「人を助ける」という切り口から現在の仕事を分析すると、より快適に受講していただくための会場作りや、受講者と交流を深めて一人ひとりをサポートすること、受講に関する相談に乗ったり、新しい情報を提供することなど、Aさんのイメージする「助ける」要素が沢山含まれていることがわかったのです。また、もし将来企画職に就いたら、社会や受講者のニーズを探って自分のアイディアをまとめる能力が必要で、そのためには今の職場で経験を積み、知識やスキルを磨くことが役立つことにも気付きました。

Aさんの出した結論
 5回の面談を経て、Aさんは会社にとどまる決意をしました。彼女の中で起きた変化は何だったのでしょうか?
 それは、自分の思いや興味、価値観が整理されただけでなく、自分がやっている仕事の意味付けができたことではないかと思います。言われたことだけをやる「アシスタント」から、「講師や受講者を助ける役割」という意味を見出せたことは、今後仕事をする上で、意欲の原動力になったり、苦しい状況を乗り越える支えとなることでしょう。また、初めて「自分の意思で選択した」という実感は、親からの自立を望むAさんにとって、きっと自信につながったことと思います。
 面談から1年後、Aさんから連絡があり、社内異動で部署が変わったことと、一人暮らしを始めたことを教えてくださいました。新しい職場は企画部ではないものの、「人を助けることは、自分の工夫次第で何でもできるのですね」と明るく語っていたのが印象的でした。

 
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