キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2008年11月号より

キャリアルネッサンス代表
長野マキ


 

 さて、最終回は「離職・転職を繰り返すクライエント」について、お話ししたいと思います。クライエントのキャリア形成を考えたとき、転職回数が多いことが、必ずしも悪いわけではありません。問題になるのは、脈絡なく転職を繰り返すことで、クライエントの人間的成長や、意味のある職業人生に結び付かないような場合です。何度も転職している方に退職した事情をうかがうと、表面的にはその都度もっともらしい理由があるのですが、根底にはその人が成長するために、乗り越えなければならない共通の課題やテーマのようなものが潜んでいるように思います。

仕事がつまらない
 Tさん(34歳、女性)は、既に5社の職歴を持っています。平均すると1社を1〜2年のスパンで退職していて、転職先の業種や職種はバラバラです。辞めた理由も、「上司から納得のいく評価が得られない」「仕事内容が合わない」「新しい仕事にチャレンジしたくなった」など、様々です。
 4社目を退職した後、「今度こそ長く仕事を続けよう」と決意し、簿記2級の資格を取って、現在の会社に経理事務として転職しました。しかし、1年経った頃から次第に辞めることを考えるようになり、再び転職活動を始めます。ところが、これまでの転職活動とは違い、ほとんどが書類選考で落とされて、面接にすらなかなか進めません。そんな状況に、身も心も疲れ果てて相談室を訪れたのでした。
 Tさんに転職したくなった背景をうかがうと、今の仕事がつまらないからだと言います。経理なら年齢を重ねてもやっていけそうだし、自分の性格にも合っていると思ったけれども、実際にやってみたら刺激がなくて面白くないというのです。そして、最近は社内報の作成や広報の仕事に興味が出てきて、総務や広報に絞って転職活動していることを教えてくれました。お話をうかがえばうかがうほど、今回の転職が、彼女の人生に意味あるものになるのだろうか?と考えてしまいます。思い留まるようにアドバイスをすることもできるかもしれませんが、そんな正論は、今のTさんの心には響かないようにも感じました。

自分の問題に気付く
 そこで、Tさんのお気持ちを尊重しつつも、現職に留まる可能性も視野に入れて、「仕事を辞めたくなるときに、何か共通することはないか」考えてもらうことにしました。
 すると、最初はどの仕事もそれなりに面白くて、一生懸命に取り組むものの、ある程度業務ができるようになった頃から、辞めたくなる傾向があることに気付きます。その「辞めたくなる」気持ちに焦点を当てて、さらに語っていただくと、「入社した当初は、周囲の人が自分に注目して、何かと気を遣ってくれるが、仕事を覚えるにつれて、注目されなくなる。それで、仕事もつまらなくなる」というのです。
 カウンセリングを通して自分の問題に気付いたTさんは、転職してもまた同じことが起こるだろうと感じ始めました。さらに、適職検査で経理に適職の方向性があることがわかると、「今の職場は残業も少なく、人間関係も悪くない。せっかく簿記の資格も取ったのだから、辞めるのはもったいないかもしれない」と感じるようになります。最後は、今の仕事をもう少し続けてみようと決心されたTさん。「なんだかすっきりしました」とおっしゃって、相談室を後にされました。
 「注目されたい」気持ちが、どこから来るものなのか、今回それを掘り下げることはしませんでした。しかし、Tさんが人としてさらに成長していくためには、いつの日か心の準備ができた時に、向き合わなければならない課題かもしれません。

 
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