キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業安定広報」2009年2月号より

横浜国立大学経済学部非常勤講師・
キャリアコンサルタント
井田喜治


 

 「ダイバーシティ」という考え方や活動が、我が国の企業でも次第に浸透しつつあります。
 ダイバーシティを推進する企業では、多様な個性を持った社員がお互いを認め合い、個々人の能力を十分発揮し、企業の経営目標を達成していくことと考えています。
 しかしながら、子育て中の社員にはまだ厳しい現実も見られるようです。そこで今回は、仕事と子育てを両立しようと必死に頑張っていらっしゃるCさんのケースをご紹介します。

Cさんを取り巻く現実
 Cさんは、大学卒業後に現在の会社に入社、社内結婚し2人の子供がいます。入社以来、デザイン業務を担当し毎日忙しいのですが、子供がまだ小さいので、決められた時刻になると保育園にお迎えに行かなくてはなりません。定時退社の前例がなく戸惑う中、「将来の年金の担い手を育ててくださっているのだから、遠慮は無用ですよ」「子育ては大変な仕事ですから、早く帰ってあげて」と声をかけてくれる同僚もいましたが、幼い頃から人と違うことをすることが大の苦手であったCさんとしては、周囲への遠慮で気持ちが押しつぶされそうで、孤独感を抱えながら奮闘する毎日でした。
 ある日、勇気を出して人事担当者に相談したところ、「そのような個別的事項は、所属する部署内で解決して欲しい」というそっけない対応を受けました。
 このことでCさんはすっかり自信を失ってしまいました。自分は実のところ、会社から必要とされていないのではないか、これほどまでに苦労してまで仕事を続けることを、果たして会社から望まれているのだろうかと、思い悩むようになりました。

Cさんの課題を整理する
 Cさんのお話から論点をまとめると、次のとおりです。
 ・子供のお迎えで残業ができないこと、・人事担当者の対応から社内での自らの存在意義を疑い始めたこと、・直属の上司にはまだ相談していないこと、・夫は常にCさんの意思を尊重してくれるであろうこと、・Cさんとしては、肩身が狭いので辞職もやむを得ないが、仕事自体にはやりがいを感じていること。
 職場の仲間が忙しく残業をしているのを見ながら自分だけ帰るのは、Cさんの性格からすると耐え難いようです。しかも、職場に一切前例がないため、自らがパイオニアにならざるを得ず、気楽に相談できる同じ立場の友人が職場にいないことも、Cさんを窮地に陥らせた一因であるようです。

Cさんの課題解決の糸口を見つけ、提案する
 私としては、・と・、つまり、日頃、遠い関係にある人事担当者には相談しつつも、直属の上司にはまだ相談していない事実がまず気に掛かりました。何か事情があるのか確かめるため、Cさんにうかがったところ、「直属の上司はとてもいい方ですが、私の単なるわがままとしか受け取ってもらえないことを恐れ、相談はしませんでした」とのことです。直属の上司との関係は普通で、話しにくい様子はなさそうでしたので、私は是非とも直属の上司に相談することをお勧めしました。それが一番の近道だと思ったのです。
 Cさんは、最初は黙りこんで考えていましたが、ようやく「職場に戻ったら、相談してみます」とおっしゃり、お帰りになりました。

行動を起こしたCさん
 早速、Cさんは直属の上司に相談しました。上司は、思い詰めた表情のCさんを前に、びっくりした顔で、「どうしてこれまで話してくれなかったの?」と、親身になって相談に乗ってくれたそうです。日頃からCさんの仕事ぶりをよく知る、直属の上司だからこその親身の対応であったとも言えるかもしれません。心を開くことの大切さが身にしみた、とCさんは語ってくれました。
 今回のケースについて、早く上司に相談すればよいのにと思うのは簡単ですが、Cさんのように、なかなか周囲に対して心を開くことができず、一人で悩んでいる人はまだまだ多いのが現実だと思います。特に、職場の中で自分が少数派に該当する場合にはなおさらだと思います。そのような時、キャリアコンサルタントが客観的な立場から、行動を後押しできればと考えています。
 それに加え、何でも気軽に相談できる上司や職場環境がぜひ欲しいものです。それがダイバーシティを企業の中に根付かせることにつながると思います。

 
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