キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業研究」2011年夏季号より

ライフデザイン・
カウンセリングルーム
(臨床心理士、2級キャリアコンサルティング技能士)
伊東眞行


 

 ●システムエンジニアからの方向転換を考えているBさん

 Bさん(33歳)は、“システムエンジニアから社会保険労務士に転職するのは突飛でしょうか?”と相談に来ました。
 Bさんは高等専門学校を卒業し、IT会社に入社して13年になります。ここ数年、慢性的な残業に強い疲労を感じるようになってきました。また、契約先との予算面での交渉など、営業的な仕事にはストレスを感じるといいます。
 Bさんは、40歳位で左遷される人を目の当たりにしたとき、自分の将来が見通せなくなり、このままこの会社にいてよいのだろうか、と疑問が出てきました。
 社長は、激しい競争の中での生き残りをかけて、社員に効率化のハッパをかけます。納得のいく仕事をしたいというBさんは、この会社にだんだん違和感を覚えるようになってきました。
 また、いずれ、若い人の教育や管理など、マネージメントの役割を任される可能性があります。専門職志向の強いBさんは、そのような想像をするだけで、憂鬱な気分になるのでした。
 Bさんは、転職するなら独身で33歳の今しかないという思いが、次第に強くなるとともに、法律の専門職である「士業」に目が向くようになってきました。Bさんは「家庭の事情もあり大学に進学しなかったけれど、国語や社会も得意だったので、大学の法学部にはあこがれをもっていた」といいます。
 法律関係の資格をいろいろ調べてみたところ、社会保険労務士に最も興味をもつようになりました。仕事の内容が身近に感じられるし、すぐ独立できなくても、転職に生かせそうな気がするといいます。
 ただ、理科系の学校を出て、IT業界で仕事をしてきた人間が、法律関係の仕事へ転職するのはあまりに突飛で非現実的ではないかと不安になり、キャリアカウンセリングを受けに来たとのことでした。
 システムエンジニアとして中堅になって、スムーズにマネージメントの役割へと移行していく人もいますが、Bさんのようにその役割に抵抗を感じたり、自信をもてない人も少なからず見受けられます。
 システムエンジニアが転職する場合、同じ業界を選ぶことが一般的ですが、方向転換して全く別の業界に転職する場合もあります。
 Bさんも畑違いの仕事・資格を考えていることへの不安があり、専門家に意見を聞いてみたいという思いになったようでした。
 カウンセリングの中では、まず現状の悩みを傾聴し問題を分析した上で、システムエンジニア継続の可能性を模索しました。また、Bさんの興味や能力などの適性と社会保険労務士の仕事との関連について検討しました。その中で、Bさんから社会保険労務士とシステムエンジニアとは分野は違うが、求められる能力に共通性があるという話が出ました。すなわち、①ルールや法則をもとに論理的思考力を活かす仕事であること、②コミュニケーション力を活かし、顧客の状況をつかみ提案する仕事であること、などでした。
 カウンセラーからは、社会保険労務士はマネージメントの要素もあるので、そのことも考慮する必要があることを助言しました。また、Bさんが自分自身でよりリアルに判断できるよう、社会保険労務士に、直接仕事の実情を聞いてみるよう提案もしました。
 この相談を通じて、Bさんは漠然と考えていたことが、あながち非現実的ではないという安心感を得られるとともに、今後自分が考えたり準備したりすべきことについてヒントを得たようでした。
 キャリアカウンセリングはいくつかのステップを踏んで進んでいきます。自己理解、仕事理解、啓発的体験、意思決定、方策の実行、新しい仕事への適応、などです。Bさんは自己理解と、(希望の)仕事の理解はある程度は進んでいましたが、より具体的な仕事の情報や、啓発的経験が乏しかったために、意思決定がしにくかったのかもしれません。
 Bさんのような大きな方向転換をめざすケースでは、クライエントとともにこれまでのキャリアを総括し、キャリアカウンセリングのステップをより丁寧に確認していく協同作業が重要であるといえるでしょう。

 
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