キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業研究」2012年春季号より

株式会社セーフティネット
 相談部マネージャー
人材紹介会社再就職支援事業部
 スーパーバイザー
産業カウンセラー
藤掛弘美





 私は、メンタルヘルスサポート会社で、契約企業の従業員やそのご家族、省庁職員などからキャリア、メンタルヘルス、人事などに関する相談をお受けし10年になります。
今回の連載では、普段お受けしているご相談の中で心掛けているいくつかのポイントをお伝えできればと思います。
 その中でも、特に就職支援のご相談をお受けする際に意識をしている三つの「A」について、お話をしたいと思います。
 一つめのAは、ご相談前より「安心」できるよう支援する
 二つめのAは、相談者の「安全」を目的に支援する
 三つめのAは、「諦めず」に支援の方法を探す
です。

 今回は、一つめの「安心」をテーマにAさんのケースをご紹介します。
 「平成23年版 高齢社会白書」によると、介護・看護を理由に離職・転職された方の数は平成18年では女性で11万9,500名、そのうち40代から50代は60%を超え、その数は年々増加しています。具体的に受けられる支援を確認したり、リソースを探すことで、就業継続できる可能性も多く存在し、辞めずに済むこともあります。介護で退職を余儀なくされると、社会生活から離れ孤独になりがちです。少子化により、45歳以上のキャリア相談では、介護の問題を避けては通れない現実があります。
 「どこに相談すればよいのか?」「受診をさせるにはどうしたらいいのか?」「そもそも専門家はどこにいるの?」「親を人任せにして恥ずかしい」「お金が掛かるのでは?」など、ご相談者のお気持ちに添いながら、専門家として知識をしっかり持ち、どうすれば「安心」が得られるのかを見立てる力が必要だと、日々実感しています。

 Aさんは大学卒業後、就職した大手メーカーの総務部で20年以上勤務。会社が打ち出した45歳以上を対象とする早期退職者優遇制度を利用して退職しました。当初は、すぐにでも再就職を目指し、活動を開始しようと思っていましたが、母親(70代前半)の「長く働いてきたのだから、しばらくゆっくりしてみては?」の言葉で、雇用保険期間中は活動を最低限にして、母とのんびり一緒に過ごす時間を作るよう心がけました。
 Aさんは母一人子一人で現在も二人暮らしです。大学卒業後も家事は母親任せで、収入の確保を目標に仕事を継続し、スキルを積み、やりがいも感じていたと言います。ところが退職し、毎日一日中母親と過ごすと、今まで気がつかなかった物忘れの多さや動きの緩慢さ、不安げな様子が目につきます。
 Aさんへの依存心も増えてきました。
 「もう働かなくてもいいのに」「のんびり暮らそう」「そばにいて欲しい」などの言葉に母親の老いの不安を感じたAさんが考えて出したのが、「通勤時間は片道30分以内、残業なし、出張なし」の就労条件でした。 お聴きすると、「母に何かあったときに駆けつけたい」「自分が思っていたほど母は若くない」「もしかして認知症では?」など、今まで見えなかった母の姿に不安を感じておられます。
 「今あるお母様への不安が少なくなれば、仕事探しの条件は変わりますか?」とお気持ちを確認したところ、「できればスキルを生かしたい」「厚生年金受給資格期間を満たすまで継続したい」と話されました。面談で母親の健康状態を確認し、健診に繋げる方向で話し合い、現実対応を支援しました。“物忘れ外来”で医師から「年齢相当である」とのお墨付きを頂きました。また、この1年疎遠になった母親の友人との連携や親戚への声掛けを行い、母親のリソースを探しました。さらに何かあった場合の相談先の確保として介護ステーションの検索、保健所への相談、主治医との連携を行うなど、積極的に母親の人生に関わっていくに従い、不安が消え、Aさんの安心感が高まり、さらに母親本人からも「甘えていたけれど、私もまだまだ大丈夫みたい」「あなたの将来のためにわたしも頑張るわ」と言われたと嬉しそうに報告されました。
 その後は「母の気持ちは落ち着き、安心しているように見える。私も自分の気持ちを整理しようと思います」と話し、辞めることを決断した経緯や後悔の念、新しい環境への不安についても数回面談を行い、棚卸作業を丁寧に行うことで、Aさんは変わっていきました。
 そして面談を開始して約3ヵ月、「自分にできる仕事」を条件として応募案件を探したところ、ドアツードア1時間以内で希望の企業が見つかりました。

 
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