キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業研究」2012年秋季号より

株式会社セーフティネット
 相談部マネージャー
人材紹介会社再就職支援事業部
 スーパーバイザー
産業カウンセラー
藤掛弘美





 三回目の「A」は「『諦めず』支援の方法を探す」をテーマにお話をしたいと思います。
 ご相談者は活動期間が長くなると「自己肯定感」が下がることがあります。何度も応募書類を作成し、面接に出向き、謝絶が続くと「自分は社会から求められていない」と悲観的に思えるのは当然のことです。そんな時、よき理解者、支援者の存在は就職活動において大きいと思います。
 また、就職活動は、健常者であっても負担の大きい出来事です。まして身体障がいのある方であれば、さらに負担が大きいことは想像がつきます。悲観的、否定的になりがちなご利用者を支え、働く力、活動する力を失わずに二人三脚で支援ができればと思います。

 Cさんは、40代の男性で、奥様と中学生の息子さん2人の4人家族です。大学卒業後、メーカーに就職。技術一筋で20年以上勤務経験がありました。30代後半に「うつ状態」を経験されますが、3カ月の休職期間を経て復職後は順調に勤務していました。
 「その時の経験で、働き方や考え方を変えました」と話され、実際、少年野球チームのコーチや町内会の世話役をするなど、社会貢献もしながら仕事をされています。
 面談開始から4カ月以上経過しても面接で落ちることが続いたCさんの担当コンサルタントが、「うつ病の再発ではないか?」とスーパーバイザーの私のところに相談に来ました。  すぐにCさんと面談を行いました。確かに体は傾き、猫背です。歩き方も踵が上がらず不安定さが見受けられます。言葉は不明瞭で声も小さく、話の聞き取りにかなりの集中力を要しました。けれど、抑うつ感は感じられず、生活のリズムも保たれ、明るく前向きな気持ちで、早朝の少年野球チームのコーチもなさっています。
 体のことを少し細かく伺うと、四肢が思うように動かず、食物の誤嚥、発声の困難、転倒などが起きていて、体がいうことをきかず、就職に結びつかない悔しさを語られました。メンタル失調の可能性より、むしろ体の異変を想定しました。「まずは健康状態を上げていきましょう」と、Cさんが受診しやすい大学病院を一緒に検索し、受診を強く勧めました。それから3カ月後、Cさんは奥様に伴われ、足に装具を着け、杖をついて現れました。神経系の難病に罹っていたそうです。
 早期発見の感謝の言葉とともに「主治医に障害年金受給を勧められました。本音は社会に参加し続けたい。がんばる姿を子どもに見せたい。でも、今の厳しい社会情勢の中、もう働くことは諦めるしかないですね」と語られました。
 本当に諦めるしかないのでしょうか? 働く意欲があり、動かせる両手があります。担当のコンサルタントと連携し、ハローワークの障害者支援コーナーに相談に行き、専門家の意見をお聞きしました。また主治医の意見、病院の作業療法士のアドバイスなどを参考に面談を重ね、Cさんの知識、スキルの延長で、家庭でもできる仕事はないか、一緒に考えました。
 Cさんは、足りないスキルを職業訓練コースで学び、自宅でできるパソコン作業の仕事を3カ月かけてみつけました。仕事が決まり、ご挨拶に見えたときにCさんから、「手が動かなくなるまで働きます。そしてその後は、またできることを探します。僕のことを諦めないでいてくれてありがとう」と、うれしい言葉をいただきました。
 もちろん、この仕事だけでは家族を養うのは難しく、身体障害者手帳を取得、障害年金も受給。奥様も仕事をみつけられました。「夫が家に居てくれるので安心して働けます」と笑顔で語られた表情から、家族を支えていこうという強い覚悟が感じられ、感動したことを覚えています。
 Cさんは難病に罹患した事実を受け止め、前を向き、できることを探しました。奥様からの報告では少年野球のコーチも続けられているそうです。

 就職支援に自分一人のスキルや知識だけでは足りないと思ったとき、諦めずに他の専門家の意見を聞き、別の支援の方法を探す努力をする。ご相談者より先に諦めない。ご相談者が「本当は」どうしたいのか、“思い”に耳を傾ける。そんなことを学ばせていただいたケースでした。

 
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