キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業研究」2015年冬季号より

株式会社日本・精神技術研究所
 心理臨床・教育事業部
 キャリア開発カウンセラー
八巻甲一



 前回のコラムで、自分で自分の人生を設計することが求められる時代と書きました。それが豊かな人生を送るために必要であり、その豊かにするために欠かせないこととして「内的キャリア」の重視を挙げました。それは言葉を換えて言えば、仕事にどのような価値や意味づけをし、自覚しているかということとも言えます。
 日本での「キャリア教育」の遅れを指摘する人は多いのですが、その一つに「内的キャリア」の軽視(または無視?)の問題があると言えます。職業選択に おいて安定した高収入や、名の通った企業への就職を第一義に考えるという「外的キャリア」偏重の傾向に陥ってしまうことが起きているからです。
 特に学校教育の中で目立つのは、偏差値が高い人ほど「何を学びたいかではなく、どこの学校に入れるか」で進路を選択する傾向です。就職先の企 業を選択する際も同じ基準で選択する人は決して少なくありません。こうした「外的キャリア」重視で進路を選択してきた人が、偶々仕事に躓いたこと がきっかけで、働く意欲や仕事への自信を失うということは珍しくありません。本人は転職でもと考えますが、カウンセラーが「どういうことをしたい ですか」と本人の気持ちを確かめようとしても、容易に答えが出てきません。そもそも自分が「こういうことをしたい」ということで進路( 仕事)を選択し てきていないので、質問に戸惑い、混迷するばかりです。
 一方、「私はこういうことが好きだから、それを仕事にしたい」という進路選択は、自分にとっての仕事の価値(大切さ)を実感できていると言えま す。その見本はプロスポーツの人たちです。少々の壁に突き当たっても人一倍努力しますし、そうした意欲を持ち合わせています。こうした意欲をもた らすものが「内的キャリア」と言えます(内的キャリアと外的キャリアに関しては参考文献(小野田他)p111 〜を参照)。

 32歳のBさん(女性)は不安を抱えていました。子どもが欲しいと考えているのですが、そう簡単に踏み切れない迷いがあったからです。
 ある大手企業でシステムエンジニア(SE)として10年頑張ってきました。仕事は忙しく、9時、10時の退社も珍しくない日常を送ってきました。時には顧客からの要望で休日出勤もあります。これまでは何事も仕事優先でやってきましたし、夫もそれは理解してくれています。Bさんは働き続けたいので出産後は職場復帰したいと考えています。しかし、育児を考えると同僚たちと同じような勤務時間が確保できないことは明らかです。
 今までのように何事も仕事優先とはいかないだろうから、仕事か育児かと葛藤する状況が生まれるだろうし、そうなった時に、その判断が自分ではできなくなるんじゃないかと怖れていました。上司からは、うちの部署で子育てをしながら働く女性社員がいなかったし、そうしたロールモデルもこれからは必要なので、チャレンジしてみたらどうかと、育児と仕事の両立を勧められると言います。
 ある意味、恵まれた環境にいると言えますが、それもBさんには却ってプレッシャーになっていました。みんなと同じような勤務時間を確保できなければ、いざという時、現場にいられないこともあるだろうし、当然期待される成果も出せないだろうと考えるからです。また、しばらく時短勤務になることを考えると、仕事の実力も落ちるし、自分のキャリアはどうなるのだろうとも思います。あれやこれや考えての漠然とした不安でした。
 私は「仕事を続けたいということですが、今の仕事をどのくらいしたいと思っているんですか?」と問いました。Bさんは「仕事を続けられるなら部署は替わってもいい」と言い、今の仕事へのこだわりはないと言います。それを聞いて思いました。Bさんが不安を抱く要因はこの辺にあるんじゃないかと。もし、今の仕事に価値や働く意味を見出し、この仕事こそ私がやりたいことだと自覚しているなら、どうこの仕事から離れないで続けていくかということを必死で考えるんじゃないかと感じたからです。そこでの悩みは、育児か仕事かという選択ではなく、育児を続けられるよう、仕事を続けられるよう、誰に、どこに、どういう支援を求めるかという悩みになると思えたからです。
 Bさんは、「今の仕事が自分にとって、どんな価値や意味があるかをゆっくり考えてみたい」と言って面接は終わりました。

 女性が働き続けるためには社会制度の変革は必然のことですが、育児と仕事の両立を目指そうとする際に直面する葛藤を考えると、女性にとっての「内的キャリア」の重要性は男性以上と言っても言い過ぎではないと思います。

※参考文献
横山哲夫他共著「キャリア開発/キャリア・カウンセリング」2004年、生産性出版

 
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