キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業研究」2016年No.1より

株式会社日本・精神技術研究所
 心理臨床・教育事業部
 キャリア開発カウンセラー
八巻甲一



 私はサッカー観戦が好きで、テレビでJリーグの試合中継などもときどき見ます。先日は、オリンピックの最終予選を兼ねたU― 23アジア選手権での日本チームの活躍を大いに楽しみました。
 彼らは得意なことであり、好きなことを職業にしている集団です。闘う意味や価値をそれぞれ明確に持ち合わせていることでしょうし、それが「内的キャリア」として重要になっていることは前回のコラムで触れたことです。
 今回は、一方の「外的キャリア」について考えてみようと思います。サッカー選手としてオリンピックに出たい、欧州の有名クラブに入ってサッカーをしたいなどはわかりやすい「外 的キャリア」です。こうした「外的キャリア」がサッカーへのモチベーションにもなることでしょう。
 では、われわれキャリアカウンセリングの世界の、多くの対象者である給与生活者の場合は、具体的に「外的キャリア」はどのように語られるでしょう。また、それにどう対応するのがいいのでしょう。

 Cさんは日本の大手企業に勤める20代後半の営業マンです。数年前に約1年間ヨーロッパのある大きな都市でビジネスの研修を受けたことがありました。そのときの働き方や評価のあり方が日本と大きく違うことに大いに魅力を感じて帰国したと言います。彼の今の悩みは、そうした海外で営業マンとして活躍することにチャレンジしたいのですが、なかなか踏ん切りがつかないでいるので、どうしたらいいかということでした。
 Cさんが感じた魅力はこうです。ビジネスの現場は実力主義で、個人としての成果が良ければ給料という形で直接反映されると言います。また、その報酬額も日本では想像できないほど高額で、出世も実力優先なので、若くても多くの部下を持つことが可能と言います。高額な報酬も出世も魅力と語ります。厳しい世界だが自分が仕事のできる人として認められれば、仲間として尊敬し合い一体感を感じることができる職場だったとも言います。
 インターナショナルな出会いがあり、グローバルな世界を意識しながら働ける環境で、ビジネスマンとしてチャレンジしたいと熱を込めて語るのでした。ただ、実力主義の世界は当然リスクも大きく、成績が悪ければ辞めなければならないのも現実でした。それを現地で肌で感じてきただけに、軽い気持ちでは海外に行くことに踏み切れないのです。

 少しでも高い給料が得られる職種や職場を選択したり、出世に価値を置く働き方がもちろん悪い訳ではありません。むしろ、多くの野心ある若いサラリーマンの目指すところと言っても過言ではないでしょう。
 ここで取り上げたいのはCさんが目指す野心の先にあるものが「外的キャリア」ということです。
 Cさんは面接が進む中で、逡巡させる大きな要因は営業職として外国で活躍するだけの語学力が備わってないことが大きいと気づきました。英語が喋れるだけでは通用しないのだと言います。
 「今さらながらですが、海外で活躍するには自分にとっての武器が必要です。もう一つの外国語を少なくとも会話レベルでは不自由しない程度に身につけてから(海外行きを)決断しようと思います。そういう気持ちになりました」と、気持ちの整理がついたことを喜んで面接が終わりました。
 私は面接を終え、Cさんが退室された後に大事なことをしなかったことに気づきました。Cさんの「外的キャリア」を大事にしたことは良かったのですが、「海外でのチャレンジの先にある出世と高額の報酬は、あなたにとってどういう意味・価値があるのですか?」と「内的キャリア」に係わる質問をし損なったことです。
 彼の文脈は「外的キャリア」重視でしたので、もしかしたら即答できなかったかもしれません。それでも尋ねる意味はあったと思います。なぜなら、彼にとって海外で働く意味や価値を考えることは、今抱えている逡巡をもう一つ別の視点から捉える機会になったことでしょうし、それがキャリアカウンセリングの目指す支援だと思えるからです。

※引用文献
「時代を拓くキャリア開発とキャリア・カウンセリング 内的キャリアの意味」2007年、NPO法人 日本キャリア・カウンセリング研究会

 
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