キャリアカウンセリングの様々な現場で
活躍される方々によるリレーコラム。

「職業研究」2016年No.3より

秋田県立大学
総合科学教育研究センター
准教授
渡部昌平



 カウンセリングで修士号を取得してから労働省に入省し主に職業安定行政で15年勤務し(うちハローワーク4年、労働局2年)、いまの職場に転職して6年目になりました。大学での主業務は低学年向けのキャリア教育ですが、就職ガイダンスや就職支援などのほか、小中高教員研修や中高生向け職業講話、企業講演・研修などもお手伝いしています。最近は社会構成主義あるいはナラティブ・アプローチと呼ばれる理論・技法を如何に効果的・効率的に用いるか、また研修でどうやって伝えるかということに腐心しています。

 近年、サビカス「キャリア構築理論」やマクマホン&パットン「コンストラクティビスト・アプローチ」などの社会構成主義アプローチが、日本でも紹介・導入され始めています。これら社会構成主義アプローチは、従来のキャリア・カウンセリングとどう違うのでしょうか。
 私は、これら技法は現在の問題や過去の問題の原因に焦点を当てるのではなく、未来の「あって欲しい姿」に焦点を当て、そこから現在や過去を再構築するところに違いがあると考えています。その目的のためにクライエントの語りを引き出す質問等を重視し、結果として相談が早期に効果的・効率的に終結するのではないかと考えています。

 一例をご紹介します。
 大学生のAさんは就活につながるインターンシップの面接で落とされ、相談に来ました。相談内容を意訳すると「自信が持てないので、うまく自分を表現できない」「選考では人を押しのけてでも自己主張しないといけないのに、できない」ということのようです。よく話を聞いてみると、完璧主義から来る不安と、もともとAさんが持っている内向性が自信のなさを形成しているようでした。
 上記のような状況が分かったとしても、不安や内向性に焦点を当てて相談することはしません。本人の希望は「自己理解を深めて、選考に通るようにしたい」ということですから、弱さの原因を探るというよりも、持ち続けたい人生観や強みのほうを一緒に整理して行きました。
 サビカス「キャリア・ストーリー・インタビュー」などの質問を通じて、Aさんは優しさを大切にしていることが分かりました。相談を通じてAさんは「相手を傷つける意見は言いたくない」という自分の優しさに気づき、「自分の素直な気持ちを言いたい」という気持ちを認めることができました。また完璧主義や内向性から生じる不安や自信のなさに気づき、内向的な自分でも人とうまくやってきたという「例外」を発見することができました。さらに「情熱を持って仕事をする人が好き」「新たな出会いや体験が好き(≒これは内向性の例外でもあります)」「マイペースが好き(≒これは内向性にも通じています)」という新たな自分の資源にも気づき、認めることができました。結果として「選考時に課せられる作文は、この相談のおかげで100%通過」することができたそうです。Aさんは無事、第一志望の企業から内定を得ることができました。
 社会構成主義アプローチは構造的な質問等の形式を持っており、ややもすれば職人的あるいは勘に頼るカウンセリングを、構造化しやすいように感じています。ある意味、初学者でも理解しやすいように感じています(一方で傾聴を重視されるベテランから「それでいいのか」と疑問を投げかけられることも少なくないのですが)。
 ここまで読んでいただいて、解決志向アプローチやナラティブセラピー、あるいはポジティブ心理学や実存主義との類似性を感じた方もいらっしゃるかもしれません。また、社会構成主義アプローチにも課題や限界は当然にあります。次回以降、失敗事例も含めて(?)、理論・技法の整理や課題・限界について、いま感じていること、考えていることをお伝えしようと思っています。


※引用文献
・ 渡部昌平(2016)「社会構成主義キャリア・カウンセリング技法を用いた学生に対するメール相談」産業カウンセリング研究、17(1)、45?54頁
・ 渡部昌平(2016)『はじめてのナラティブ/社会構成主義キャリア・カウンセリング』川島書店
・ 渡部昌平編(2015)『社会構成主義キャリア・カウンセリングの理論と実践』福村出版

 
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