「職業研究」2010年春季号より

大本さんは、声で表現するという仕事に大きな魅力を感じ、声優の道へ進みました。現在は声優としてだけでなく、声の持つ可能性を大きく広げようと様々な方面で活動しています。


声優・ナレーター
大本眞基子さん

PROFILE
おおもと・まきこ●岡山県倉敷市生まれ。京都の美術系短期大学を卒業後、声優を目指して上京し、大手声優プロダクションが主宰する養成所に入る。その後、同じプロダクションに15年間あまり在籍。「星のカービィ」シリーズのカービィ役、「コレクター・ユイ」の春日結役ほか、多くのアニメ作品で声優を務める。 一昨年からフリーとなり声優のほか、声を軸とした様々な方面で活躍。聞く者に安らぎを与えるという「1/fゆらぎ」の声を持つ。ブログ(http://tinowa.cocolog-nifty.com/mugendai/)で日々の活動を綴っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大本さんは絵本も手がけ、声と同じように「絵はダイレクトにエネルギーを伝えることができる」と語る。これは大本さんが絵本作家としてつくった『ぼくの旅』の一節。『ぼくの旅』の注文はe-mail(voice1-f@nifmail.jp)、Amazon で受け付けている。

 

 

 

アニメのアテレコ体験会にて。子どもたちといっしょにアテレコを行い、彼らに声優という仕事の一端を知ってもらう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

●精神的な表現の限界に挑戦できることに可能性を感じて

どんな思いから声優を志そうとされたのですか。

大本 私は子どものころから暇さえあれば絵を描いていました。言葉で表せないものを表現するのが好きだったんです。『声優』という職業を知ったのは中学2年生のとき。「これだ!」と思いました。声のお仕事は、年齢や性別に縛られることなく幅広い表現ができます。例えばそれが宇宙人であろうと、小さな子どもであろうと、実際にこの世に存在しないようなカービィみたいな丸いキャラだって演じることができます。このように声の表現は、あるときは「顔出しの演技」以上に、いろいろな疑似体験ができるし、テンションの振り幅がものすごく大きい。精神的な表現の限界に挑戦することができるということに、とても大きな可能性を感じました。
 ほかにも「媒体」として「声」の持つ力はすごいと思います。思いを凝縮した「声」には、真実を伝える力がある。例えば自分が落ち込んでいるとき、「元気出しなよ。大丈夫だよ」と人に言われても響かなかったことが、物語の中の登場人物の「感情」を通すと、「そうか!」と気付くことがある。それは、間接的に、客観的に、そのキャラクターの生き様に自分を重ねることができるから。その役が生きていて、うそのない「感情」が湧きあがって溢れ出たものだから、聞いた人の心にすっと入っていくんだと思います。たとえ「演じる」という疑似体験でも、「感情」にはうそはない。声には、言葉にできないニュアンスを伝える力がある。それは言葉だけでは伝えられないエネルギーです。私はそうした声の持つエネルギーを、突き詰めていきたいと考えています。


声優になろうと上京し、養成所に入られますね。そこではどのようなことを学ばれたのですか。

大本 1年間、発声の練習やアテレコの実習のほか、日舞や洋舞、舞台稽古など様々なことをやりました。日舞や洋舞などは、あまり声優とは関係がないのではと思われるかもしれませんが、まずいい俳優、役者であることが前提です。全身で「表現する」ことが、声の芝居にも深みを与えます。


お仕事では、どんなことに留意されていらっしゃいますか。

大本 声優という仕事は、一人ではできません。例えばアニメーションの場合、原作者や監督、脚本家、作画監督、音響監督、作曲家、そして声を担当する役者など、多くの人々が関わって「一つの作品」を作り上げていきます。それだけに現場の人間関係がとても大切で、円滑なコミュニケーションを欠かすことはできません。
 役者が台本を読みこんで役づくりをしても、必ずと言っていいほど現場で変わります。監督の意図や演出の方向性、そして絵の表情や、セリフの口パクのテンポなどで、想像もしていなかった方向に変更することもあります。また登場人物同士の掛け合いの中で、セリフのニュアンスが変わることも度々です。最終的なキャラクター像は、自分の「解釈」が現場の様々な「意図」と出会い、精神的な化学反応を起こして生まれてくる、スタッフ全員の「子ども」のようなものです。
 役者がどんな役を担当するかは、ほとんどの場合、オーディションで決まります。そして選ばれたメンバーが、半年なり1年なりの間、スタジオの中で一緒に仕事をすることになります。「良い現場」とは、自分の役割を認識し、生かしつつ周囲の人たちも生きるような、自由にエネルギーを交換し合える所だと思います。現場の雰囲気は、そのまま作品の楽しさになって表れます。それぞれが、生き生きのびのびとして支えあう、そんなチームワークをつくれたら最高ですね。


●役に自分を投影し「声」という命を吹き込む

お仕事のやりがいや面白さはどんなところにありますか。

大本 役づくりをするとき、「この人は何を考えているのだろう?」「どんなふうに育ってきたのかな?」「どんなときに幸せを感じるんだろう?」と考えながら、だんだんその役に近づいていきます。もしかしたら遠い過去、宇宙のどこかでこんなことがあったのかもしれない…こんな経験をしたことがあるのかもしれない…。リアルな感情が芽生えてくると、そんなふうに感じることもあります。そしてなぜ今、自分にこの役が来たのか?と考えると、その役にとても「縁」を感じます。
 私が声を担当したキャラクターを、子どもたちが気に入ってくれて、お手紙をいただくことがあります。大人にわかってもらえない子どもの世界で、つらいことや悲しいことを体験した彼らとそのキャラクターが「友達」になれたと思うと、とてもうれしいですね。間接的だけど、不思議な心のつながりに幸せを感じます。


声優という仕事はそれぞれの場面に応じていろいろな声を出さなければならないと思うのですが…。

大本 確かに役柄やそれぞれの場面によって声は変わります。でも、声色だけを変えても、役は薄っぺらになってしまいます。一人ひとり「別々の命」だから、個性がある。だから役に対して、「あなたは私を通して何を表現したいの?」と向き合います。声色だけを変えても「命」は生まれない。「声」をつくるんじゃなく『命をつくる』のです。


最近は声優以外の分野でもご活躍ですね。

大本 ボランティアの読み聞かせや、各種の朗読会、笙(しょう)演奏者との声と音の響きあいのコラボレーションも行っています。また、ボイスヒーリングのCDも出す予定です。声を軸にしてすべてがつながり、広がりがある仕事ができるようになりました。「音」にはエネルギーを感覚として伝える無限の可能性がある。私はいろいろな媒体を通してエネルギーを届け、みなさんを少しでも元気にするお手伝いができたらいいなと思っています。


多くの若者が声優という職業に憧れているようです。彼らにアドバイスをお願いします。

大本 本をいっぱい読んで、いろいろなことに感動できる感性を磨くことだと思います。そして能動的に、楽しんで何でも体験してみる。たくさん「素敵だな」と思うものを見つける。役者にとって役に立たない経験なんて一つもありません。様々な役もあって好き嫌いもあるかもしれないけれど、たくさん本を読み、いろいろな経験をすることで様々な性格や感じ方があるということがわかる。すると、一人ひとりを受け入れることがもっと簡単になる。
 「共感」できなければ、「演じる」ことはできません。演じるということは、「感動」を最大限にふくらませて表現すること。何でも偏見なく受け入れ、いろいろなことに感動できる感性を磨いて、いつも心が震えている状態に自分を持っていくことが、役者にとっては大切なんじゃないかと思います。


自分がどんな職業に向いているかわからないという若者が増えているようです。どんなふうにお考えですか。

大本 「失敗したらどうしよう」と思うと、自分のやりたいことがわからなくなります。「やりたいこと」というのはきっと世界に無数にあって、まだ知らないだけだと思う。失敗も成功も「新しいことを実験した」という点で「大成功」だと思います。私たちがここに生まれてきた意味って、いろいろなことを「考え」、「試す」ためだと思います。世界を巨大なおもちゃ箱だと考え、ワクワクする方向へ進んでいけばきっと宝物がみつかると思います。

 
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