「職業安定広報」2004年12/号より

塚本こなみさんは、造園家であるご主人の仕事を手伝う中で、緑を守り育てる「緑化」の仕事に出会います。
女性として初めて樹木医の資格を取得し、木々の再生にも取り組んできました。
不可能と思われた巨木や古木の移植を成功させ、大きな注目を集めましたが、そこにはわずかな可能性も見落とすまいとする真剣な姿勢があります。


樹木医・環境緑化コンサルタント
塚本こなみ氏

PROFILE
静岡県生まれ。結婚後、造園家である夫の仕事を手伝い、やがて(株)環境緑化研究所を設立。1992年、女性で初めて樹木医の資格を取得。日本各地の緑化事業や古木・巨樹の保護・治療、移植に取り組む。1996年「あしかがフラワーパーク」に大藤を移植し成功。99年同園園長。著書に『奇跡の樹』がある。




















●「緑を守り、育てる」ことを自分の仕事に選ぶ

いつごろから、花や樹木に関心を持たれるようになられたのですか。

塚本 子どもの頃はごく普通の女の子でしたし、植物にとりたてて興味があったわけではありません。やはり花や樹木に大きな関心を持つようになったのは、日本庭園の造園家である夫と出会ってからですね。彼の仕事をそばで見たり、実際に手伝うようになって、次第に花や樹木に関心を持つようになりました。

やがてご自分で会社を設立されますね。いわばそれまで「未知の世界」であったものが、「自分の仕事」となるわけですね。

塚本 それまで造園といえば、新たに公園や庭を造ることが主だった仕事でした。つまり緑を増やすことに主眼があった。しかし、私は、緑を増やすこと一辺倒ではなく、植えた樹木や花を守り育てる「緑化」という仕事が必要になるのではないかと考えていました。
そこで、造園にも様々な分野があるのではないかと夫に相談し、緑化を業務の中心とする自分の会社を設立したわけです。

女性で初めて樹木医の資格をお取りになられましたね。

塚本 ええ。でも、どうしても樹木医になりたいという強い思いがあったわけではありませんし、この資格が自分にとって大きな目標ではなかったのです。軽い気持ちで資格を取得したのです。しかし、資格を取得してからは、実は「自分は何も知らないんだ」ということを思い知らされました。しばらくの間、いわばインターンとして他の樹木医さんが手がけた樹木や日本中の大木を見て歩くなど、本当に勉強の連続でした。

造園は一般に「男の世界」だと言われます。ご苦労はなかったですか。

塚本 私は22歳で夫と結婚し、彼の仕事を手伝っていましたから、「男の世界」にも全く違和感はありませんでした。ただ「女のくせに…」というような周囲の反発はあったようです。もっとも、私はそんなことを気にするタイプではありませんが…。

ご主人から教えられたことは、どんなことですか。

塚本 今でも造園家としての師匠は夫だと思ってます。とにかくいい庭を造るためには、妥協しないし、利益追求にも走らない。いい庭を造るということにのみ専念をする人で、私もそうした姿勢を見習っています。また造園に対する感性では、逆立ちしてもかなわない。でも、緑を守り育てる「緑化」については負けるとは思っていません。「いい庭」を造ることに関しては、ライバルと言えるかも知れませんね。私は、まず誰よりも夫に恥ずかしくない仕事をしたいと思っていますから…。

●「できない」と判断するのは最後の最後

お仕事でやりがいや喜びを感じるのはどのようなときですか。

塚本 私たちの仕事はホテルやレストランなどの庭園や観光植物園の設計プランが多いのですが、そこにいらっしゃったお客様が「わあ、きれい!」という声を上げてくださったときはとても嬉しいですね。また樹木医の仕事では、やはり木が元気になっていく姿を見ると「よかった」という思いがこみ上げてきます。大木の移植という仕事も多いのですが、新しい土地に植え付けが成功したときの醍醐味は格別です。
私の仕事は、他の業者が「難しい」と断った後で依頼されることが多いのです。それだけに成功したときは達成感も大きい。例えば、移植の場合、およそ一年から三年の準備期間が必要です。その間に木の特性を把握し、少しでもうまく移植できる可能性を見つけ出します。治療でも、どのようにすれば回復するのか、わずかな可能性を探し出すのです。「できないのでは…」ではなく「できるかもしれない」と考えて仕事に取りかかる。「できない」と思ったら、その時点で可能性はゼロになってしまう。「できない」と判断するのは最後の最後です。
ご依頼主は「この木が枯れたら私も死んじゃう」というくらい、ご自分の人生をその木に賭け、大変強い思いを持っている方がたくさんいらっしゃる。私はその思いに精一杯お応えしたいんです。

お仕事の厳しさやご苦労はどのようなことでしょうか。

塚本 もの言わぬ樹木が相手ですから、その無言の声を受け止めることが非常に難しいですね。「この木はどうしてほしいのか」、何度も何度も聞きに行く。そしてそれに見合った方法を探り出すわけです。
私が行う移植の方法は「常識では考えられない」と言われます。例えば、それまで藤の移植可能な根元径は60センチほどとされていましたが、私は120センチ以上の移植をいたしました。ただ、何百年も生きている木を50数年しか生きていない私が、触れていいのか、あるいは「この木は本当に治療されることを望んでいるんだろうか」と自問することもあります。そうした疑問を抱きながらも、その木に大変な思いを持っていらっしゃる依頼主の気持ちに何とか応えたいと、最大限の努力をするのです。それだけに小手先の仕事はできません。

●樹木の個性を見極めることが大切

お仕事のなかで最もご留意されている点はどんなことでしょうか。

塚本 木の性質は1本1本すべて違うのです。植えられている土も場所も違うので、それぞれの特性を見極めることが大切ですね。
また、私たちの仕事は、与えられた条件や予算、環境の中で求められている庭をプロとしてお客様に代わって実現することです。だから自己満足で庭を造ってはいけません。もちろん、長い年月で見た場合にお客様が困ってしまうようなことは、ご意向にそぐわないものであってもきちんと申しあげることも必要です。

樹木医や造園家を目指す若い人たちにアドバイスをお願いします。

塚本 この仕事にとって最も大切なのは、花や緑を扱うことが好きだということです。それがあれば、成長につながります。また、あきらめないことも大切です。あきらめなければ、わずかな可能性も次第に大きくなっていく。それはこの仕事だけではなく、人生全般に通じることではないでしょうか。

 
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