「職業安定広報」2004年12/21号より

田口久美子さんは、雑用係から店長まで書店にかかわるほとんどの仕事を経験してきました。
毎日新しい本が入荷する刺激的な場に立ち会える喜びを感じながら、自分で面白い本を見つけ出し、お客様に届ける努力も怠りません。その姿勢には「本当に本が好き」という思いがあふれています。


ジュンク堂書店池袋本店 副店長
田口久美子氏

PROFILE
東京都生まれ。大学卒業後、キディランドに就職。1976年西武百貨店池袋店書籍部(後にリブロとして独立)に移り、首都圏各店舗に勤務。97年ジュンク堂に転職する。現在はジュンク堂池袋本店で副店長のほか文芸書を担当。業界では「カリスマ書店員」と呼ばれる。著書に『書店風雲録』。




















●本の動向から世の中の動きがわかる面白さ

大学を卒業された後、就職先に書店を選ばれたのはどのような理由でしょうか。

田口 最初に就職したのは、おもちゃと本をいっしょに販売している原宿のキディランドという会社でした。事務員として採用されたのですが、どうも仕事になじめない。そこで1年ほど経ってから、東京駅近くの店に移らせてもらったのです。そんな経歴からもわかるように、書店に対して特に強い思い入れがあったわけではありません。当時は、女性の就職は大変厳しく、たまたま就職したというのが正直なところです。

しかしその後、ずっと書店業界で働いていらっしゃいますね。本を売るという仕事に面白さを見つけられたということですか。

田口 キディランドはサラリーマンのお客様が多く、ビジネス関連の本や歴史小説がよく売れました。売り場面積は30坪ほどで小さいけれど、やはり自分で棚に並べた本が売れるというのは嬉しいものです。本をお客様に手渡すことができる喜びは、書店員の仕事の原点だと思います。また、毎日新しい本が入荷してきます。それだけでもワクワクしますが、今どんな本が出版されているのか、またどんな本が売れているかを見ていると、世の中の動きがわかるという面白さがあります。

●自分なりの品揃えで棚を作る

その後、西武百貨店書籍部に転職されますね。自分なりの棚を作ろうと考えるようになったのはその頃ですか。

田口 それまでは、取次から入荷した本をとにかく棚に並べていくことが、一般的な書店員の姿だったように思います。私も例外ではありませんでした。本を組み合わせて自分なりの棚を作ろうとしたのは、書店員として働き始めてから10年以上経ってからですね。
西武百貨店書籍部には、個性ある書店にしようと必死で取り組んだ人たちがいました。その一人今泉正光さんは、当時「今泉棚」と呼ばれるほど独創的な棚作りをして、お客様から大きな支持を受けていました。その棚からは、堅い人文書が次々と売れていく。私も彼から大きな影響を受け、意識的に本を選択して自分なりの棚を作るようになりました。
自分が作った棚にお客様が敏感に反応してくださる…工夫すれば本は売れるものだとわかるようになり、とてもやりがいがありました。自分なりの棚を作っても、それがお客様の支持を受けなければ、自己満足にすぎません。
当時は特色ある書店が方々に出現し、書店自体も変わりつつあった時代でした。書店員も本を意識的に選択して仕事をする時代になったと思いましたね。

●自分で面白い本を見つけ、お客様に届ける

現在は書店の経営は厳しくなったという声も聞きます。

田口 私は大手の書店にいることもあって、そうした実感はあまりありません。ただ、小さな書店で働いている友人たちの声を聞くと、やはり厳しいことは否定できません。特に最近は雑誌の売り上げが下がり、これまで短期間で定期的に回収できた資金が少なくなり、経営に影響を与えているのが実情だと思います。

売り場の仕事にも厳しいことがありますか。

田口 私は楽観的な人間なのでそうしたことはあまり感じませんね。もちろん肉体的にはきついこともあるし、お客様からの要望も様々で、対応するのは大変ではありますが…。それよりも毎日新しい本が入り、時代が動くのが現場でわかる面白さのほうが数倍大きい。

お仕事の中で心がけているのはどんなことでしょうか。

田口 世の中にはたくさんの本があります。そこから自分なりに面白い本を見つけ、それをできるだけ多くのお客様に届けたいという気持ちは、おそらく書店員なら誰でも持っていると思います。自分でしか売れない本を売るということですね。私はときどき書評を書かせていただくことがありますが、これも自分が面白いと思った本をお客様にお届けするための手段の一つです。でも1冊の面白い本を見つけるためには、少なくとも10冊は読まなくてはならない。これは、結構大変ですよ。
また、ベストセラーのように、自然と売れていく本もあります。それが必ずしも自分の個人的な思いと重ならないこともある。しかし、それは書店を元気にするためにとても大切な本なのです。全国的に売れる本があることは、特に地方の小さな書店にとっては、重い意味を持っています。だから全国隅々まで行き渡る本があるというのは、書店業界にいる者としてとても嬉しいことです。

本を売るだけでなく、著者を呼んでトーク・イベントを開催していますね。

田口 読者であるお客様は、著者とどこかで繋がりたいと思っているのではないでしょうか。でも著者と直接に会える機会がそんなにあるわけではない。それなら、書店という場所で、どんな思いでその本を書いたのか、どういう考えを持っているのかなどを直接聞くことができるようにしたいと思ったのです。読者と著者の出会いの場を提供することは、書店の役割の一つではないかと考えています。

書店員になりたいと思っている若者へアドバイスをお願いします。

田口 まず、書店業界は大変厳しい状態にあるということを自覚してください。肉体的にも楽ではない。またお客様のレベルが高くなって、様々な要求が毎日のようにあります。さらにネット書店やインターネットによる媒体も増えてきました。しかし、本は人間にとって必要なもので、それを届ける場所があるのは大切なことだと思います。入社面接などで志望理由を尋ねると志望者たちは「本が好きだから」と一様に答えますが、問題は「本当に好きか」ということです。本に入れ込み、いつも本のことを考え、本の役割について自覚し、さらに自分が読んだ本のことを仲間と語り合おうとする人なら、この仕事に向いています。そのような人が厳しい状況を認識しつつも、なお書店員になりたいと本気で考えるなら、私はとても嬉しい。

 
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