「職業安定広報」2002年7/6号より

中野親一さんは博多人形作家として、多くの賞を受賞し高い評価を受けています。博多人形作家であった父親
の仕事を見て育ち、自分でも作りたいという夢を育み、実現しました。その中野さんの博多人形への情熱は尽
きることがありません。そのお話しぶりからは、「博多人形が好きで好きでたまらない」という様子が伝わっ
てきます。



博多人形作家
中野親一

PROFILE
1946年生まれ。福岡県出身。博多人形作家であった
父に入門・師事。独立後、博多人形作家として数々
の賞を受賞。博多人形の認知度の向上のためにも活
躍する。


































●父に弟子入り、その修業時代に大切なことを教わった

博多人形作家として独立されるまでの経緯をお教えください。

中野 父も博多人形を作っており、その仕事を見聞きし、ま
た手伝いをしながら育ちました。そうした中で、博多人形を
自分でも作ってみたいと考えるようになるのは、自然な成り
行きだったと言えるでしょう。自分できれいな博多人形を作
りたい……その思いは年々強まっていきました。その思いを
実現すべく、23歳のときに父に師事入門し、30歳前後に博多
人形作家として独立したわけです。

中野さんにとってお弟子時代はどのような意味がありました
か。

中野 当時、弟子修行の期間は5年とされていました。その
間、父から厳しく仕事を仕込まれたわけです。ふだんは親子
ですが、仕事では師匠と弟子という関係が厳然とありました
。そのころ、博多人形は正座をして作るのが一般的でしたが
、長時間座ることができるようになるだけでも大変でした。
近頃は腰を保護するために机に向かって椅子掛けで作業をす
ることが多くなりましたが、私は面相、つまり人形に顔を書
き込むときは、今でも正座します。やはり顔は人形の命、し
たがってこちらも居ずまいを正そうという思いが自分の中に
ある。そうした人形への基本的な向き合い方を、父、すなわ
ち師匠から教えられましたね。

●いつもと変わりなく、当たり前のように仕事に向かう
ことが大切

全国的に有名な博多人形ですが、その魅力はどのようなとこ
ろにあるのでしょうか。

中野 博多人形の優しい顔立ちを見たときに、何とも言えな
い和やかさが心に広がっていくのは私だけではないでしょう。
博多人形には人を癒してくれる力があるように思います。そ
れが最大の魅力ではないでしょうか。
また、作る側から言えば、はじめは単なる「土塊」が、次第
に人形の形になっていく、その変化が大変おもしろい。土塊
を自分が頭の中で描いた人形に変える、思いが形になるとい
う魅力は、ほかには代え難いと思います。

博多人形作りの難しさはどんな点でしょうか。

中野 一番苦労するのは、どのような人形を作るかを考える
ときですね。それができれば、あとの工程はそれほどでもあ
りません。ある程度の形を思い描くことができるまで、普通
2カ月くらいはかかります。街を歩いていても、あるいは雑
誌や本などを見ていても、人形作りに役立つヒントはないか
常に気を配ります。「これは!」と思ったものがあったら脳
裏に焼き付けます。そうした日頃からの勉強が、人形の出来
を左右することになりますね。
また現在では、住宅事情から大きな人形を置くスペースを確
保するのが困難になってきています。そうした事情を反映し
て、博多人形も昔より小ぶりな物が多くなりました。ただ、
大きければ値段がはるというわけでは必ずしもありません。
小さな人形でも細やかな細工が施されたものは値段も高い。
小さな人形にどのような細工を施すか、工夫のしどころです。

お仕事の中で、特に心がけていらっしゃることはどのような
ことでしょうか。

中野 私は年中博多人形のことを考え、仕事をしています。
ですから「ここに注意しよう」とか、「この点を心がけよう
」ということは特にありません。そんなことにとらわれず、
いつもと変わりなく当たり前のように平常心で仕事をするこ
と……それがいい作品を生むことになるのではないでしょう
か。もちろんときには、気分が乗らないこともあります。そ
のようなときには仕事をしません。自分の心が人形に現れて
しまいますから。また仕事場にいても日中は、様々な電話が
かかってきます。中にはしつこいセールスもある。そうした
煩わしさを避けるため、面相は朝に行うようにしています。
「顔は人形の命」と言われますが、朝ならば周囲の環境に煩
わされることなく、落ち着いた気持ちで人形に命を吹き込む
ことができるのです。

●博多人形作りの火を絶やさず、いつまでも燃やし続け
たい

自分で本当にやりたいことを探す若者が増えています。その
中に博多人形作家を目指す者がいるかもしれません。彼らへ
のアドバイスをお願いします。

中野 私は博多人形がとっても好きだから人形作家になりま
した。自分の好きな仕事で生活できるというのは、とても幸
せなことだと思っています。博多人形はその作品が全てです
。そこには年功序列もないし、わずらわしい人間関係もない
。また畳一畳のスペースがあればできる仕事でもあります。
作品が高い評価を受け、うまく販売ルートに乗ればそれなり
の収入もある。ぜひ若い方に博多人形の伝統を受け継いでい
ただきたいのです。ただし、修行は厳しく、フリーター感覚
では務まらないということは申し上げておきたい。

これからの目標をお聞かせください。

中野 博多人形作家の数は年々少なくなっており、博多人形
を取り巻く状況は厳しいと言わざるを得ません。もし博多人
形の火が消えてしまうようなことがあれば、本当に身を切ら
れるほど寂しい。ですから、その火を消さないように最大限
の努力をすること、それが私の最大の目標です。
私はNHKからの依頼で「走らんか!」という博多を舞台に
した朝の連続ドラマで博多人形の技術指導を担当したことが
ありますが、これなども博多人形の認知度の向上にいささか
貢献したのではないかと自負しています。これからも、様々
な機会を通し、博多人形のすばらしさを国内はもとより海外
へ向けても発信したいと強く思います。

 
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