「職業安定広報」2005/号より

遺跡の発掘調査は、土の中に埋もれて何百年間も積み重ねられた歴史のメッセージを読み解く仕事です。
五十嵐彰さんは、その作業を通して、表舞台には現れない人々の営みを見つけ出し、
歴史の全体像を現代に伝えようとしています。


(財)東京都生涯学習文化財団
東京都埋蔵文化財センター 調査研究部調査研究員
五十嵐 彰氏

PROFILE
1961年、東京都生まれ。大学で考古学を専攻。大学院の修士課程修了後、出身大学の新キャンパスにおける発掘調査のプロジェクトに参加。91年東京都埋蔵文化財センターに就職。




















発掘現場の土を調査する。



























チームワークを保ちながら、注意深く遺跡を発掘する(東京都港区)。

●中学生時代に考古学に関心を抱く

どんなきっかけで考古学に関心を持たれるようになられたのですか。

五十嵐 小学生の頃からボーイスカウトに参加していて、野外活動が大好きでした。そのためか、漠然とではあるけれど、将来は何かフィールドワーク的な仕事に就きたいと思っていました。また中学生のときに読んだ考古学の本が大変興味深く、この分野に関心を持つようになりました。考古学なら野外で仕事ができ、しかも自分の関心を満たすことができる…そんな思いが強くなり、大学で考古学を専攻するようになったのです。

考古学を専攻したとしても、全員がその知識を生かすことができる分野に進むとは限りません。

五十嵐 私自身も進路に迷った時期があります。大学4年生になって就職するか、大学院に残るか悩み、民間企業に就職した知り合いを訪ねてアドバイスを受けたことがあります。そのとき彼は「自分の好きな道を信じて進みなさい」と言ってくれました。そのアドバイスを受け、考古学の道に進もうと決意し、大学院に進学しました。

最近は発掘調査を業務とする民間企業がありますが、公的な機関と仕事の内容に違いはありますか。

五十嵐 仕事の内容はほとんど同じだと思います。ここ数年、公的機関の新規採用が大変少なくなっていますので、考古学を専攻した人が民間の発掘調査会社に就職する場合が多くなっていますね。

●予想を超える遺物に対応するため、勉強の毎日

大学や大学院で研究者として考古学を勉強されていたときと、現在のように、仕事として発掘調査に携わっている場合とでは、ギャップがありますか。

五十嵐 それはありません。学生時代から遺物を発掘して整理し、レポートをまとめて発表するという作業をしていましたし、それは今でも基本的に変わりませんから。どんな場合も、遺跡の発掘調査の仕事に関してはそれほど大きな変化はありません。

遺跡の発掘調査というお仕事の内容について教えてください。

五十嵐 私は東京都埋蔵文化財センターという公的な機関に所属しています。まず都の教育委員会から当機関に遺跡の発掘調査の依頼があります。最初の調査は、試掘といって、本格調査にかかる前の準備を行います。この段階では1〜2メートルほど掘って、遺跡の規模や本格調査に要する期間を積算します。そしてそれに基づいて調査体制を立ち上げ、スタッフを集め、本格調査を始めるのです。試掘は私たちのほかに、民間の発掘調査会社が担当することもあります。本格調査にかかると、実際に遺物を発掘し、それを水洗いして土や泥を洗い流し、報告書をまとめて刊行することになります。
1つの遺跡の調査を終えたら別な遺跡調査に移ります。調査にかかる期間は、遺跡の特性によってさまざまで、数カ月で終わる場合もあれば、5年以上かかるときもあります。

発掘調査というお仕事にはどのような面白さがあるでしょうか。

五十嵐 掘ってみないと何が出てくるかわからないという面白さです。試掘の際に作成されたデータがあり、どんなものが出てくるかはあらかじめ予想はしているのですが、それを超えた遺物が出土する場合も多く、新しい発見の連続です。その新しい発見に対してどのような対応をするかが日々求められます。自分の専門の分野だったらある程度の対応はできるけれど、そうでない場合は困ったことになってしまう。そのために常に勉強しなければなりません。そうした遺物との緊張関係がとても面白いと思います。
また遺跡は、その場所がたどってきた歴史の集積なんですね。過去のメッセージが幾重にも積み重なっているんです。その何百年間のメッセージを読み解くことが私たちの仕事です。現在は過去からのつながりの上に成り立っており、歴史のメッセージを踏まえないと未来も見通せないのではないでしょうか。

お仕事の厳しさはどんなことでしょうか。またどんな点に留意していますか。

五十嵐 外での作業が多いので、天候に大きく左右されます。また暑さや寒さも体に応えますね。
何よりも心がけているのは、スタッフの安全です。野外での作業ですので、危険に出会わないとも限りませんから、十分な注意が必要です。また発掘調査は1人ですべてを行うわけではないので、チームワークが非常に大切です。掘る人、計測する人、進行を管理する人などさまざまなスタッフがおり、それらの人々の関係がスムーズになるよう、注意することも必要です。

●発掘調査によって
歴史の表舞台に登場しない人々の営みを考える

今後の課題について、お考えになっていらっしゃることがあれば、お聞かせください。

五十嵐 発掘調査はさまざまな場所で行われますが、その地域の住民の方々に、そこはどのような歴史的な積み重ねを経て現在に至っているかをきちんと伝えていきたいと思います。これまでも、現場見学会を開き、また遺物の説明なども行ってきましたが、それをさらに充実したものにしていきたいと考えています。歴史というと、著名な人物の活躍だけに目を奪われがちですが、それは表舞台だけのことです。歴史全体を下支えしているのは表には現れない町人や農民の営みであり、それを考えることではじめて歴史の総体が見えてくる。発掘調査はそうした営みを明らかにする仕事です。

考古学を専攻し、将来は発掘調査の仕事をしたいと考えている若者にアドバイスをお願いします。

五十嵐 考古学を勉強していると、専門的な分野に偏ってしまいがちです。しかしそれでは、考古学の本当の楽しさはわからないと思います。できるだけ若いときに専門以外のことを勉強することが大切です。広い視野で自分の研究を位置づけ、自分の専門を見つめていく訓練をしておかないと蛸壺に入ってしまう。絶えず、なぜ自分はこの遺跡を掘っているのかを問い返すことが必要です。遺跡がどのような時間の変遷をたどっているのか、またその場所が周囲とどのような関係を持っていたのか…この時間と空間の2つの軸で遺跡を見つめないと、発掘調査という仕事の意味を見失いかねません。

 
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