「職業安定広報」2005/21号より

金子鮎子さんは大学卒業後、NHKに入り、日本初の女性テレビカメラマンとして活躍しました。
在職中から精神障害者と交流を重ね、定年退職後はともに働く場を築こうと努力しています。
お話からは精神障害者とともに働くという確かな思いが伝わってきます。


株式会社ストローク 代表取締役
金子鮎子氏

PROFILE
東京都生まれ。大学卒業後、NHKに入り、日本初の女性テレビカメラマンとしてニュース番組などの制作に携わる。後に広報の仕事を担当。NHKを定年退職後、1989年、精神障害者とともに働く場を築くため(株)ストロークを設立。障害者雇用のための啓発誌『働く広場』(高齢・障害者雇用支援機構発行)の編集委員でもある。
URL:http://www.stroke.jp/kabu/

        

清掃に励むストロークのスタッフ

●日本初の女性テレビカメラマンから精神障害者とともに生きる道へ

大学卒業後NHKに入局され、日本初の女性テレビカメラマンとしてご活躍だったとか…

金子 当時としては大変珍しく、NHKは4年制大卒女子を受け入れていたのです。私が入局したのは1955年ですが、放送の主流がラジオからテレビに変わる時期でした。入局当初は事務員として働いていたのですが、番組制作関係の仕事をしたいと申し出て、やがてテレビジョン局に所属するようになり、ニュースなどの制作に携わりました。女性カメラマンとして、取材のほか、制作や送出も担当しました。1968年からは、広報の仕事をするようになりました。

広報の仕事をされながら、精神障害者やその家族との交流の場として「日曜サロン」の立ち上げに関わられますね。

金子 はい。私は学生時代から精神の世界に関心があり、精神分析や精神病の本などを読んでいましたが、実際に患者の方と会ったことはありませんでした。働くようになってからもカウンセリングスクールに通いました。そのうちに何とか精神障害者が交流するような場を持てないかと思うようになり、「日曜サロン」を立ち上げたのです。

「日曜サロン」を通し、精神障害者やその家族と交流を重ねながら、一緒に働く場を築けないかとお考えになるんですね。

金子 「日曜サロン」のほかにも、様々な機会を通し交流を重ねる中で、精神障害者が置かれている厳しい実態を知るようになったのです。退院したとしても、薬を飲み続けなければならず、話し相手もなく、殻に閉じこもり、生活もルーズになってしまう。そうした状態から抜け出ようと本人や家族が働く場を求めても、仕事を見つけるのはとても困難でした。
そんな実情を知るにつれ、定年後は精神障害者とともに働く場を築く仕事をしようと思ったのです。それで、1989年、ストロークを設立しました。どのような組織形態にするかを知り合いの経営コンサルタントとも相談し、株式会社としました。また、私の判断であまり資金を必要としない清掃を業務にすることに決めたのです。

●有料で研修を行い、精神障害者の働く意識を醸成

新たに働いてもらう精神障害者には有料で研修を行うそうですね。

金子 当初は無料でした。しかし無料だと時間通りに来なかったり、無断で欠席してしまう場合が少なくありませんでした。有料にするに当たっては躊躇もありましたが、きちんと働くための意識を持ってもらう必要があると考え、踏み切りました。それ以後、無断で欠席するようなことはなくなりました。研修はマンツーマンにより、それぞれの特性に応じて少なくとも5回は行います。もしそれ以上の回数になっても研修料は同じです。研修を通し清掃の技術を教えるとともに、その人の生活のパターンを把握し、朝型に切り変えるように適性を見極めながら指導していきます。こうした指導を通して働く意識を醸成し、それまでの生活を立て直してもらうのです。

お仕事の中で感じる喜びとはどのようなことでしょうか。

金子 一般に精神障害者は仕事に就いても長続きせず、就労時間も短いといわれています。しかし、当社では現在18名の精神障害者が働いていますが、そのうち8名は在籍期間10年以上になります。また週平均の就労時間が30〜40時間に及ぶ者も少なくありません。在職中にビルクリーニング技能士の資格を取得した者も3名います。このように精神障害者が仕事を通して成長していくことが私の喜びです。企業の最大の役割は、そこで働く人々の能力を開発することでしょう。企業の成長もそこに関わってくる。そのことに健常者と障害者の違いはないと思います。

お仕事の厳しさはどのようなところにありますか。

金子 彼らは障害を抱えているだけに体調が思わしくなく、欠勤せざるを得ない場合があります。一度に多数の欠勤者があると、それを補充するやりくりが大変です。そうした事態になっても、企業として責任を持って請け負った仕事ができるよう、休むときは必ず連絡するように徹底しています。また一度契約したビルでも、入居している事業所の統廃合などによって空室になってしまう場合があります。そのときは仕事がなくなってしまうし、新たな入居者があってもほとんどの場合、コストダウンを迫られます。また清掃エリアも限られてしまい採算に見合わない場合も多い。このような困難を何とか乗り越えて、この仕事を続けたいと思っています。

お仕事の中で留意していらっしゃることは?

金子 精神障害者は挫折を経験し、世間の偏見もあって非常に敏感になっています。それだけにマイナス志向になってしまいがちです。それをなんとか、プラス志向に変えていくようにしたいと思っています。多少の失敗に負けずに元気を取り戻し、成長してほしいと心から願っています。仕事とは、それに携わる者の職業的な能力を伸ばすだけでなく、人間として生きていく力を身につけさせるものです。また仕事を通して、多くの人との出会いもあります。障害者というだけで、それらのチャンスを失ってしまうのはとてももったいないのではないでしょうか。

●施設職員とハローワーク、企業が密接な連携を

精神障害者の雇用促進に向けたアドバイスをお願いします。

金子 確かに精神障害者にハンディはあります。しかし、潜在的な能力もあり、工夫次第でそれを引き出すことができるはずです。事業主や採用担当者の方たちは、まず彼らと接触していただきたい。彼らを知り、またいろいろな事例を参考にして、その職域拡大に努めていただきたいですね。施設の職員の方たちにもお願いがあります。施設内部での支援だけにとどまらず精神障害者が外で働くようになったときのアフターフォローにいっそう力を注いでほしいなと思います。施設職員の方々とハローワーク、そして企業がさらに連携を密にすれば、精神障害者が働く場はもっと広まると思うのです。

 
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