「職業安定広報」200510/号より

福井定一さんは日本コロムビアを定年退職後、それまでとは全く異なるビル管理業の仕事に携わりました。
その経験を生かし、仲間とともにビル管理を業務とする企業組合を設立、
専門的な技術を持つ高齢者たちととともに70歳の現在も活躍しています。


企業組合ビル・サービス・エンジニア・グループ 理事長
福井定一氏

PROFILE
1935年、埼玉県生まれ。大学卒業後、日本コロムビア株式会社(現コロムビアミュージックエンタテインメント株式会社)に入社。長年営業職で活躍し、57歳で役職定年退職。その後三井不動産ビルマネジメント株式会社に就職し、ビル管理を学ぶ。同社を60歳で定年退職し、1993年設立した企業組合ビル・サービス・エンジニア・グループの理事長に就任。

●定年退職後、全く未知の分野のビル管理業へ

日本コロムビアに役職定年まで勤められ、その後は全く分野が異なるビル管理会社で働かれますね。

福井 日本コロムビアには57歳までお世話になりました。再就職先としてビル管理会社を選んだのですが、どうせ働くならこれまでと全く違う仕事をしてみようという思いでした。いわば未知への挑戦というわけです。そのビル管理会社には60歳の定年まで3年間勤めました。

ビル管理会社ではどんなお仕事をされていらっしゃったのですか。

福井 一言で言うなら中間管理職です。経営と現場の間にあるポジションだけに、ビル管理全般について学ぶことができました。今の仕事につながる多くのことを勉強でき、大変ありがたいと思っています。

現在のお仕事を始めるまでのいきさつをお聞かせください。

福井 そのビル管理会社では、現場で仕事をしている人の定年は65歳でした。彼らは空調やボイラー、冷凍機、あるいは給排水、電気、消防設備などビル管理の実務に関わる専門家であり、各分野の資格も持っています。私は当時からこのような技術と資格を持った人が定年で活躍の場がなくなるのはもったいないと思っていました。一方で彼らは定年退職後も、それぞれの能力を生かそうと、数人でグループを作り仕事をしていました。より効率的にさらに多くの仕事をこなすために組織化を図ろうということになり、ビル管理のマネジメントの経験がある私に声がかかりました。私も60歳以降をどのように過ごすかを考え、仲間とともに新たな仕事をスタートさせたのです。まず営業基盤を固めて、組織としての体制を整え、企業組合を作り上げたわけです。

企業組合として設立された意図はどんなところにありますか。

福井 みんなで働き、利益は構成員に分配するというシステムに魅力を感じました。このシステムなら、そんなにあくせくする必要はないし、定年後の仕事として適しているのではないかと思ったのです。設立にあたっては中小企業団体中央会が懇切に指導してくれました。設立してから今年で12年目になります。

●顧客のニーズに臨機応変に対応するために

派遣業としての認可も受けていらっしゃいますね。

福井 1996年に派遣業の認可を受けました。これは企業組合としては派遣業認可の第1号です。当初は普通の企業のように受注した仕事を技術者にお願いするという形でしたが、このような方法だと、変化するお客様のニーズに十分応えられません。また仕事も限られてしまいます。そこで派遣業としてビル管理の業務を行うことで、市場の変化に臨機応変に応えられるようにしたのです。私たちの組合は平均年齢66歳の高齢者の集まりで、若い人ほどの体力はない。しかし、長年の経験で培った、ほかには負けない技術があります。だったらその技術を売ろう、それには派遣という形が一番適していると考えたのです。現在、仕事のうち8割程度は派遣によるものです。

派遣の仕事を受注する場合には、どんなことに留意していらっしゃいますか。

福井 仕事の期間が半年以下のものは極力受けないようにしています。というのも、あまりに短期間で終わってしまうような仕事ですと、実際にその作業に携わる者にとって、自分の仕事に対する責任が持てず、また職業人としての誇りも薄れてしまいかねないからです。我々にはこの仕事に対するプロであるという誇りがあります。それを損なうようなことはしたくない。また価格もコストダウンを迫られる傾向にありますが、相場での受注をお願いできるよう努めています。その分、営業はお客様にこちらの意向をご理解いただかなければならず、大変です。

●高齢者の仕事を確保するために情熱を燃やす

定年は70歳にしているそうですね。

福井 はい。しかし、お客様のご意向と本人、そして当方の意向が合致すれば延長できます。お客様はその人物の人柄や技術力を高く評価し、仕事を続けてほしいとおっしゃってくださることも少なくありませんし、また本人もさらに働きたいという意向を持っている場合もあります。このようなときは半年ごとに契約を更改し、継続して仕事をお願いしています。現在の従業員の最高年齢は75歳です。

福井さんは責任あるお立場にあるわけですが、どのようなことに留意していらっしゃいますか。

福井 現在ここには95名の従業員が働いています。そのほとんどが65歳以上の高齢者です。働く事情はそれぞれ異なります。老後の資金が十分な人もいますし、生活費を得るために働く人もいる。いずれにしても仕事をしたいという思いは共通しています。私はこうした従業員たちにできるだけ継続して仕事の場を確保し、その思いに応えたいと思っています。またそうすることが、私の仕事に対するやりがいでもあります。

お仕事にはどんな厳しさがありますか。

福井 仕事である限り、常に厳しさは伴いますね。企業組合でもそれは同じです。正直に言うと、企業組合は利益追求が目的ではないのだからと思い、少しのんびり構えていました。しかし、実際に仕事を始めるとそうはいかなくなる。まず、従業員たちの給料を確保するためにも十分な仕事を確保しなければならないし、当然のことながら同業者との競争もある。ビル管理会社は不動産会社や銀行、建設会社などの関連企業が多く、私たちのような独立系の場合は、安定した受注を確保するためには相当な努力が必要です。しかし、利益と仕事をみんなで分かち合うことが基本であるのは変わりません。

ご経験に基づいた高齢者雇用に対するアドバイスをお願いします。

福井 高齢者たちは定年後も、何らかの形で社会とつながっていたいと願っています。私たちはそのような願いを実現しようと、企業組合として業務を始めました。高齢者たちの長年の経験によって培われた技術や能力は非常に貴重なものです。私たちが企業組合を設立したように、それを生かすような工夫がきっとあるはずです。

 
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