2026.07.15New
企業研修の現場から vol.13-2
緻密なデザインと、当日のライブ感が、良い研修をつくる
前回の連載1回目は、効果的で生産性が高く、意義ある研修を提供するための研修デザインの考え方について語らせていただきました。この取り組みにはゴールはなく、正解も勝利の方程式もありません。その研修の狙い、その研修の参加者に最も適したものを常に考え続ける必要があります。
そして、どんなによくデザインされた研修であっても、意図に沿った研修が当日に提供できなければ効果は生めません。準備8割という方もいるほど研修にとって事前準備と段取りは重要ですが、リアルな研修の場での研修講師の立ち居振る舞いも極めて重要です。そして、ここはまさに研修講師の腕の見せどころでもあります。
研修は「ライブ」
私は、ライブや演劇・ミュージカルなどの会場に足を運ぶのが好きです。ステージと客席が一体になるあの感覚には何ともいえぬものがあります。この世界はアーティストだけで創り上げられるものではありません。観客とアーティストとが一体となって創り上げるものです。ですから、シナリオや演目は同じでも、まったく同じステージというのは2度とありません。このことは研修も同じだと考えています。
研修は講師だけがしゃかりきになって創るのではなく、参加者と一緒に創り上げる世界です。オンライン配信が当たり前にビジネスで活用されるようになった今、研修というリアルな場に人を集めるのは非常に贅沢なことです。
単に講師が知識をわかりやすく伝えるだけであれば、オンデマンド配信の方が圧倒的に利便性が高く、生産性も高いといえます。わざわざ研修に人を集めるからには、人が集まる「場」に意味を持たせる必要があります。これはリアルの研修だけでなく、オンラインの集合研修でも同じです。ですから、講師からの講義は必要最低限とし、集まった参加者同士の対話の時間を中心にすることが基本になります。人が集まらないとできないことを大切にするのです。
そうなると講師の役割は、良い講義をすることにとどまりません。魅力的な投げかけをし、対話のために安心安全の場を構築し、対話が深まるストロークを行い、発表に対して多面的なコメントとフィードバックをすることが求められます。これらはいずれも即興性の世界です。いつも同じ対応をしていては駄目で、準備したことをきちんとやればよいわけでもありません。その日の参加者の特性を素早く把握し、それに応じた対応が必要です。まさに、研修はライブなのです。相手の興味や理解度によっては、使用するパワーポイントの一部を入れ替えたり、使うエピソードを見直したり、即興的な対応が必要になります。用意したことを粛々と丁寧に伝えるのが研修ではないのです。
上司を巻き込んだ事前準備
研修をライブとして成り立たせるためには、いかに参加者が能動的に研修に参加できるかも大きなポイントです。研修は講師の話を聞くものだという参加者の思い込みはなくさなければいけません。
そう考えると、研修は研修開催日よりも随分と前から始まっています。巻き込むのは研修参加者本人だけではありません。研修に参加する意義を意味づけして、参加者に前向きに当日を迎えてもらう必要があります。
研修は本来であれば強制参加ではなく、手上げ式の希望者参加型が好ましいですが、階層別研修などを中心に、そうもいかない研修も多くあります。そんな研修では、巻き込むべきは参加者の上司です。参加者の上司が、「日常業務を気にせずに、研修に集中して行ってこい」と声かけし、さらには研修への期待を上司の言葉で伝えて送り出すことは効果的です。そのために、研修担当者は上司がこのような行動をとるように投げかけ、必要な事前情報をきちんと提供しなければいけません。
良い研修をつくる「デザイン」と「即興性」
ライブとしての研修に対して、「楽しい時間でした」「あっという間に時間が過ぎました」という感想が出るのは、研修に能動的に没頭できたことの現れなので、うれしい評価だといえます。しかし、「楽しい」で終わってしまっては意味がありません。研修は研修の場だけでは終わらないのです。
「研修転移」という言葉があります。「研修で学んだことが、仕事の現場で一般化され、役立てられ、かつその効果が持続されること」を指します。この研修転移がなされて初めて良い研修なのです。
他者との関わりの中で、研修が「内省の場」として機能し、新たな視点が自然と生まれ、それが行動変容につながればしめたものです。研修後に研修担当からフォローの投げかけをすることも有効ですが、ここでも重要な登場人物は職場の上司です。少なくとも、研修直後の1on1では研修に関わる対話をしてほしいところです。
そのためには、研修の概要を上司に伝え、どのような問いを投げかけてもらえると効果的かという情報提供までするのが研修担当者の役割です。研修当日の即興性と、研修前後のデザインの双方が重要なのです。研修は緻密なデザインと、その場のライブ感の双方が求められる仕事です。この双方を楽しめる人、そして決まったことをきちんとやるだけではなく、常に「もっとよく」を目指せる人は、研修担当者に向いています。