メインコンテンツへスキップ

2026.07.15New

トピックス

就労選択支援におけるGATBの活用


前回のトピックスでは、就労選択支援におけるアセスメント・ツールの活用についてご紹介しました。
今回は、その中の「厚生労働省編一般職業適性検査[進路指導・職業指導用]」(GATB)の活用にクローズアップして、さらに詳しく掘り下げます。日本体育大学名誉教授 本間啓二氏より、就労選択支援の中でGATBを効果的に活用するためのポイントと留意点を、事例を交えながら解説いただきます。



就労選択支援における
厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)の活用

著者近影

日本体育大学 名誉教授

本間啓二



 2025(令和7)年10月より、新たな障害福祉サービスとして、「就労選択支援」が創設された。これは、「障害者本人が就労先・働き方についてより良い選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する」制度である。対象者は、就労移行支援または就労継続支援を利用する意向のある人、および現在それらを利用している人、そして特別支援学校等の在学者である。

 「就労選択支援実施マニュアル」(厚生労働省)では、就労アセスメントの手法として、「面談」「標準化検査」「職務分析」「ワークサンプル」「模擬的就労場面」「現場実習」が挙げられ、「標準化検査」の1つとして厚生労働省編一般職業適性検査(GATB)が紹介されている。標準化検査について、本マニュアルでは「実施手続が定まっており、簡便かつ短期間で実施することができるが、検査の実施方法や解釈に関する知識と技術が求められる。 標準化検査の中には、速さ、抽象的な思考、集中力が必要とされるものもあるため、本人の障害特性等を十分に考慮した上で、検査を選択することが必要」であると示されている。

 GATBは、米国労働省が10年を費やして開発したものを戦後、日本で翻訳し標準化して、学校教育の中で実施できるように50分程度の内容に短縮したもので、現在は「進路指導・職業指導用」として活用され、中学2年生から45歳未満の社会人までを対象としている。換算表も中学生用と高校生以上用の2種類が作成されている。

 GATBを就労選択支援で活用するためには、検査の実施方法だけでなく、検査の構造や測定される適性能についての知識、職業を構造的に分析する知識も必要とされる。本稿では、GATBについて基本的な知識や経験のある実施者に向けて、就労選択支援において活用する場合の方法や留意点、事例などについて解説していくこととする。



●GATBで測定される9つの適性能

GATBで測定される9つの適性能


●GATBを構成する下位検査

GATBを構成する下位検査


GATBの概要や判定・解釈方法、検査結果の基本な活用については、「職業研究2024No.2」をご参照ください。

1 就労選択支援でGATBを活用する際の留意点

① 検査結果が低い場合

 GATBの結果の活用について、「L評価ばかりの人への対応は、どうしたらよいか?」といった質問が数多くある。このような場合には、まずは結果の返却時に個別の相談場面を設定して、受検者が検査に対して意欲的に取り組めたか、最後まで全力を出して実施できたかなどを聞いてみることが大切である。検査結果が受検者の能力特徴を正しく示しているのか、つまり正しく検査が行われたものであるかの確認である。「ちゃんとできましたか?」と聞くと「はい」といった返事しか返ってこないため、「最後まで集中するのは大変だったのではないですか?」といったように、問題があったときに言いやすくなる聞き方をすることが大切である。

 「結果記録票」ではプロフィールの目盛りが50~150点に設定されており、適性能得点が50以下になっている場合には、プロフィールの形が表に描けなくなるので、例えば100の位置を50にして作成するなどして、個人内差(個人の中で、どの能力が高いか、または低いか)が正しく見えるようにプロフィールの形を整える必要がある()。


図 適性能得点が低い場合のプロフィールの作成

図

 結果を説明するときは、プロフィールを解釈し、受検者が結果を肯定的に受け止めることができるように説明することが大切である。また、適性能得点を算出する前の下位検査ごとの結果を調べ、検査項目ごとに得意・不得意を確認する。必要な場合は、1問ずつ正答と誤答を確認し、誤答や正答の傾向を調べ、受検者と共に得意、不得意を確認していく。

 GATBは、時間制限のあるスピード検査であることから、受検者の精神テンポが影響することがあり、普段から反応がゆっくりしている場合には全体的に低く出る傾向があることを伝え、能力特徴を生かし、興味、価値観、性格などを踏まえて、職業よりも職務や作業を取り上げて確認していくことも必要である。


② 希望する適性職業群の基準に達しない場合

 適性能得点が希望する適性職業群の基準(所要適性能基準)に達しない場合は、希望職業への適性がないということではない。その適性職業群が求める2~3の適性能得点が足りないことであり、同じ職業名でも求められる能力レベルに高低差があるので、その職業で仕事ができないということではないが、希望職業を目指すためには人一倍の努力が必要だと解釈するとよい。


③ 精神的な問題を抱えた人の場合

 精神的な問題を抱えた人にGATBの実施を検討する場合、受検者の状態とニーズによって判断する必要がある。働く意欲があり、検査への理解と受検への意欲もあり、能力面での適性の確認が必要と判断される場合に実施を検討する。特に、精神障害の回復途上で能力適性の把握が必要な場合などに、実施について検討するとよい。


④ 様々な障害のある人に実施する場合

 まずは、集団実施より個別実施か少人数での実施が望ましい。また、受検者に合わせて受検者の最大能力が発揮できて、信頼する結果が得られるように環境の整備、動機付け、実施方法の工夫などが必要である。

 検査を実施する際は、受検者の特性に応じて、個別の教示や説明を加えるなど、検査項目ごとに、本人が内容について理解していることを確認しながら進める。また、これらの過程をすべて記録し、作業の様子を観察して気づいたことも記録しておくことが大切である。

 様々な障害や特性によって個人差が大きくなり、一般に能力のアンバランスから極端なプロフィールになることがある。結果の考察については、受検者の日常生活の様子や性格特性、興味、価値観などから総合的に判断・解釈する必要がある。

2 就労選択支援におけるプロフィールの解釈例

事例1:Aさん

●Aさんのプロフィール

Aさんのプロフィール

 プロフィールは適性能得点のみとなっているが、Aさんの場合はK(運動共応)が20点と極端に低く()、V(言語能力)が55点と他に比べると少し高めである()。

 検査項目別に見ると、検査2(記号記入)の粗点*は25、換算点(K:運動共応)は2と低く、検査7(計算)の粗点は5、N(数理能力)の換算点は8と低く、検査9(立体図判断)は粗点5、換算点はG(知的能力)が0、S(空間判断力)が5とかなり低い。

粗点…実際の正答数。

 Aさんの検査項目から見た能力的な特徴は、検査2(記号記入)、検査7(計算)、検査9(立体図判断)が低く()、検査1(円打点)に比べて検査2(記号記入)が低く()、文字を書くような筆記が不得意であり、検査7(計算)も検査11(算数応用)に比べて極端に低く()、単純な計算は苦手だが算数応用の問題はできている。

 検査9(立体図判断)は苦手だが、検査6(平面図判断)はある程度できているので()、立体的、構造的な比較弁別は苦手だが、形の比較弁別はある程度できることが分かる。

 特に検査7(計算)、検査9(立体図判断)では、検査用紙を見ながら、どれができてどれが間違えたのか、飛ばした問題はあるのかなど一つ一つの問題を受検者と共に確認していく必要がある。

 得意、不得意な能力について、受検者の過去の経験や現状とすり合わせて本人が結果を受け入れ、今後につなげていけるように支援していく。そのためにも適性能の特性に合った作業を提示しながら、得意な能力が発揮しやすい作業を確認していくとよい。

事例2:Bさん

●Bさんのプロフィール

Bさんのプロフィール

 Bさんのプロフィールの特徴には、N(数理能力)、K(運動共応)が低く()、P(形態知覚)が高い()傾向がある。検査項目で見ると、検査1(円打点)、検査2(記号記入)が共に低く()、目と手の共応が素早くできないため、迅速で正確な動作をコントロールする力が低く、キーボード操作のように素早い繰り返し動作には不向きであることが分かる。

 また、検査7(計算)が粗点3、検査11(算数応用)も粗点4と、共に低い()。特に検査7(計算)は、加減乗除を行う検査に2分間で3問しか正答がない。このような場合には、検査用紙を基に1問ずつ確認し、どれが正答でどれが誤答か、誤答がある場合には、その傾向があるのか、飛ばした問題があるかなどを受検者と共に見直しながら、何ができて、何がどこまでできないかを明確にしていく。検査7(計算)と共に検査11(算数応用)も低いので、数的な処理能力を使う計算、集計、数量管理、金銭管理などの作業には向かないと思われるため、避けることが望ましい。

 しかし、検査3(形態照合)、検査5(図柄照合)は共に平均レベルまで達している()。得意不得意がはっきりしているので、P(形態知覚)に関連する作業から、興味や関心、性格などを踏まえながら選択することを支援するとよい。つまり、形や図形の比較弁別力を生かして、裁断、切断、張り付け、取り付け、接合、組み立てなどの作業から、興味のある業界や取り扱う物などを考慮して選択していけるように支援するとよい。

3 就労選択支援におけるGATBの効果

 GATBの開発の趣旨からすると、「就労選択支援」において使用することは、適切であるとは言えないかもしれないが、GATBへの十分な知識と実践的な経験を積んでいることを前提として、受検者個々の障害や特性に応じて実施方法や解釈を柔軟に対応していくことができるのであれば、「就労選択支援」での「就労に関する適性」を把握したり、「就労に必要な配慮事項」を明確にするという有効な役割を果たすことができると考えている。





GATBの詳細・お申込み
厚生労働省編一般職業適性検査


GATBの導入・ご利用についてのお問い合わせはこちら



関連トピックス
就労選択支援におけるアセスメント・ツールの活用

当会のメールマガジンにて、『職業研究ONLINE』の更新をいち早くお知らせします。ほかにも、新刊情報やセミナー情報など最新のお知らせを発信しています。お名前とメールアドレスで簡単にご登録いただけますので、ぜひご活用ください。