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Vol.26-1

『職業研究』2021年No.1より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

不安で辛い状態から前向きな気持ちへ

加藤 駿氏 画像

駒澤大学
キャリアセンター

加藤 駿

 2021年卒の就職活動はコロナウイルス禍により大きなダメージを受けました。特定の業界が採用活動を急きょ停止したり、採用人数を大幅に縮小したりする動きはメディアでも広く報道されました。この影響により進路変更を余儀なくされた学生は少なくありません。今回は大学のキャリアセンターで就職支援に従事している私が昨年、実際に相談を受けた学生の事例を紹介したいと思います。

航空業界志望のAさんの例

 大手航空会社2社が採用の縮小を発表した5月の上旬、航空業界を志望している女子学生が相談に来ました。内容としては、他にやりたいことを見つけて就職活動を進めたいが、どうしても興味のある業界が見つからないということでした。「航空業界で働きたい!」という思いが強すぎて、他の選択肢に肯定的になれないということだったのだと思います。

① 心のモヤを取り除く
 前記のように本人が抱える課題についてわかったとしても、すぐに考えられる解決策を提示したりはしません。本人が「仕事を探したい」という思いの上に、就職活動への「不安」や「憤り」というモヤがかかっており、すぐに動き出せる状態ではないからです。
 Aさんは航空業界で働くことが子供の頃からの夢で、自分の実力とは関係なくその選択肢が閉ざされたと感じてしまっているのです。まずはその気持ちに寄り添い、共感しながら言葉を返すよう意識して聞くことが必要です。私はAさんが話しやすい雰囲気づくりを心がけ、不安や辛さを思う存分に話してもらうことを意識しました。そして、それを続けていくことで気持ちの整理が進み、「折り合いをつけて前に進みたい」と素直な感情が表に出てくるようになりました。

② なりたい自分を具体的に想像できる
 他の業種を探すことに前向きになれたAさん。次は本人の興味・関心について探るため、希望していた航空業界のどんなところを魅力的に感じたかを掘り下げていくことにしました。ここでは、航空業界に入ることで「どのようになれると思ったか」、「どのような能力が身につくと思ったか」を聞いていきました。航空業界への希望が漠然とした憧れから来ていたようだったので、そこを具体的にする必要があると考えました。
 丁寧に質問を重ねていくと、Aさんから「英語やホスピタリティ精神を身につけて、自分の市場価値を上げたかった」ということを聞き出せました。言い換えると「汎用的なスキルを身につけて社会で活躍したい」ということのようです。これがぼんやりしていた本人の希望が言語化された瞬間だったと思います。

③ 未来に向けて働く自分を想像できる
 あとは職種や業種を絞っていくことになります。膨大にある中から見つけるのは難しいことですが、私の場合は「未来に向けて働く姿を想像できる」よう支援しています。目先の「こうなりたい」だけでなく、将来的に「誰に」対して「どのように」影響したいかを想像することが、希望業種を絞ることにつながると感じています。また、その時に「そのように思ったキッカケ」も注意深く聞くようにしています。本人の希望が経験や背景とリンクしていると、納得感をより高めることができるでしょう。
 このように進めていくことで、Aさんは「世界中の人に自分の影響力を発揮したい」という気持ちに気がつくことができました。

 相談を通じてAさんは「汎用的なスキルを身につけたい」、「世界中の人に自分の影響力を発揮したい」という二つの希望がハッキリしました。ここまできてようやく、業界研究や企業探しの方法について案内できるようになりました。自分の目指すものがはっきりしたことで、積極的に就職活動にも取り組めるようになったようです。
 結果的にAさんは自分の価値観にあった企業を見つけ、内定を獲得することができました。就職支援において、学生の気持ちに寄り添って、モチベーションに働きかけることの大切さにあらためて気がつかされた次第です。