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Vol.26-2

『職業研究』2021年No.2より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

個々の学生の不安や悩みに向き合う

加藤 駿氏 画像

駒澤大学
キャリアセンター

加藤 駿

  「就職活動をどのように始めればいいかわからない」
 こうした相談が以前より多くなってきたように思います。コロナ禍の影響により、就職活動はオンラインでの活動が一般的になり、従来よりも学生同士の交流が極端に減っているのではないかと推測されます。こうした環境の変化が就活生の孤独な状況を作り出し、迷いや戸惑いを大きくしているのではないかと感じています。
 就職活動には成功に導くための方法論はそれなりに確立されていますし、カウンセラーが長年の経験で学生にそれを教えることはできるでしょう。しかし、学生の真剣な問いに一問一答のように型どおりに答えるだけで悩みが解消されるのか、しばしば疑問に思うことがあります。悩み惑う学生にはどのように接するべきなのでしょうか。私が試行錯誤しながら経験してきた事例をご紹介します。

Bさんの事例

 今年の8月、4年生のBさんから私に「就活のやり方がわからず困っている」と相談がありました。こうした悩みは日頃の学生相談でもよくあるケースで、私自身も得意分野と認識していました。しかし、こちらからいろいろと提案してもBさんの表情は釈然としていません……。

① 学生を型に押し込めない
 当初、私は「Bさんは具体的な就活の例を示せば動き出せるはず」という見立てをしました。これまで学生支援に携わってきた中で、そうしたケースが非常に多くあったからです。このような学生はスタートが遅れて焦り、具体的にどう動き出すべきかに悩んでおり、想定される対策やスケジュールを伝えれば納得してもらえるからです。
 しかし、その方法を伝えてもBさんの表情は暗いままです。私は見立てがはずれたため思い直して、Bさんからあらためて話を聞いてみることにしました。 

② 「動かす」のではなく「動き出す支援」
 4年生の夏を迎えても就活をまったくしていなければ遅いといえます。しかし、学生には個別の事情があり、「やり方がわからないから動けない」状態とは決め付けられません。このような時は「動けない」事情の背景をできるだけ語ってもらうことが大切です。さらなる対話を通して原因を探って、本人の意思も顕在化しやすくなります。
 話を聞くと、Bさんは自ら生活費を稼がなければならない家庭の事情、将来について両親と自分の希望の間にある乖離、単位が取れておらず卒業に対する不安などを話してくれました。
 私がそうした事情に共感を示すと、やがてBさんの口から「両親に納得してもらいたい」「アルバイトと就活と授業を両立させたい」という具体的な希望が語られるようになりました。そこで私は「どう動かすか」ではなく、Bさんの希望をどのように支援するかを考え始めた次第です。

③ 未来へ飛ばす
 Bさんには、現状の複雑な事情はいったん端に置き、悩みのない未来を想像してもらいました。具体的には「卒業も決まって、内定も得ている3月はどのような状態ですか」というような質問をして、自分になるべく都合のよい想定をするよう促しました。
 このように目指すべき方向や理想に意識を向けてもらえば、学生は足元にとらわれず前を向けると考えています。「未来に飛翔する自分に今の自分が近づくために動く」と考えるようになれれば、モチベーションも高まるはずだ、と私は確信しています。

 Bさんは語り尽くして、未来をイメージできた時にようやく自分のやるべき方法の手がかりが見えてきて、前に進み始める意欲が生まれたと思います。
 学生支援に慣れてくると、つい自分の経験を頼りにする傾向が強まり、学生の不安や悩みを一つのパターンに当てはめてしまいがちです。就活の相談はカウンセラーがあれこれ指導するだけでは十分とは言えません。学生に自らの問題を考え直すように促し、解決に向かえるように支援していく姿勢こそが大切だ、と自戒をして考えるようになりました。