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Vol.26-4

『職業研究』2023年No.1より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

「やりたいことができない」から「納得のいく進路」へ

加藤 駿氏 画像

駒澤大学
キャリアセンター

加藤 駿

 これまで、人気企業を第一志望として就職活動を始める学生を支援者としてたくさん見てきましたが、その希望通りに内定し、就活を終える学生はほんの一握りでした。とはいえ、その一握りから漏れてしまった学生の全員が不本意な形で就活を終えているかというと、そういうわけでもないと感じています。
 では、第一志望から漏れた学生は、どのようなプロセスで就職先への納得感を高めていくのでしょうか。今回はその一例をご紹介したいと思います。

Dさんの事例

 初めてDさんが相談に来たのは、4年生の7月頃だったと思います。出版社一本に絞って就活を進めていましたが、全てダメになってしまったので、これから先どうしようという内容でした。
 人気企業ばかり受けて就活が難航するケースにはよく遭遇してきたので、Dさんに言うことは決まっていました。「幅広くいろいろな企業を見て、自分に合った企業を探しましょう」。
 Dさんも、そうしたいと内心は思っていたようなのですが、まだ何か釈然としない様子でした。やりたいことができないなら、知名度が高かったり、周囲から褒められたりするような企業に入りたいと言うのです。そのような思いが、「自分のことをしっかり理解して、自分に合った企業を探そう」という意欲に蓋をしてしまっていたのかもしれません。

主体的な活動がもたらす「納得感」

 思うように就活が進められず、不安や焦りが大きくなってきたDさん。9月に「企業を紹介してほしい」と再度相談に来ました。
私がどのような企業を希望しているか聞いたところ、「やりたいこと(出版の仕事)ができないので、とにかく内定を得て安心したい」と言っていました。正直なところ、方針がわからず、紹介するのも苦労したのをよく覚えています。就活に対する焦りからか、企業のネームバリューに対するこだわりは薄くなってきていましたが、まだ自分の希望についてはハッキリしていない様子でした。
 その後は就活エージェントにも登録し、とにかく勧められた企業を受け続けていましたが、次第にそれらの企業に疑問を持つようになります。選考が進み、いざ内定が得られそうになると、給料や休日、将来の暮らしのことなど、それまで気にしていなかったことが気になり始めたのです。そして、それぞれの企業と自分の気持ちを丁寧に照らし合わせているうちに、「人に関わって、感謝される仕事がしたい」という思いにも気がついたようです。
 ここからのDさんは、少しずつ自分の希望に合う企業を主体的に探すようになりました。悩む様子も見られず、前向きに活動している姿が印象的でした。少し経って、紹介を受けた企業からも内定を得ましたが、最終的には自分で見つけた事務職の仕事に決めて就職活動を終えています。

学生の「心の溜め」となる支援を

 こうしたプロセスをあらためて振り返ってみると、「主体的に動き出す」ということが納得感を得るポイントになるように思えます。いくら「早めに広い視野を持って動き出すように」と強要しようとしても、学生本人がその必要性に気がつくような経験を経ないと難しいと言えそうです。
 では、学生が主体的に動けるようになるまで、支援者ができることはないのかというと、そうではないと思っています。
Dさんは出版社が全てダメになった段階で、キャリアセンターや就活エージェントに相談するようになりました。そこでのアドバイスが効いたという面ももちろんあったと思いますが、「精神的なゆとりができた」という効果が大きかったのではないでしょうか。
「出版社」という明確な目標があるうちは、Dさんは一人で就職活動を進めてきたと言います。自分の活動に対して振り返り無念の思いを誰かと共有できず孤立するのは、精神的にも負担が大きいことだと思います。精神的な負担を誰かと共有できた時、背中が軽くなって自然と自走できるようになったのではないでしょうか。
 新卒一括採用で時期が決まっている中で、学生は焦らされこの過酷な道に挑まなければなりません。支援者はその険しい道のりを伴走することで、「心の溜め」になることができるのだと思います。伴走支援で学生が粘り強く探索を続けることができれば、試行錯誤しながら「納得のいく進路」が開けるのではないかと考えています。