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Vol.12-4

『職業安定広報』2008年3月号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

働き始めたばかりの若者達に、大人達ができること

小島貴子氏 画像

立教大学
ビジネスデザイン研究科 准教授
コオプ教育コーディネーター

小島貴子

 私の連載も最後になりましたので、今私が1人の社会人として考えていることをお伝えしたいと思います。

 私はこの2年間、新聞紙上で若者の仕事に対する悩み相談を受けてきましたが、その過程で感じたことがあります。それは、彼らの「悩み」とは、実のところ「不安」と同一物ではないかということです。
 今の若者はバブル期を知らない世代です。物心ついた頃には既に景気は低迷し、右肩上がりの成長神話も消え去っていました。明日は今日よりもっといい日、といった楽観主義とは無縁で育ってきたのです。
 そんな彼らが最も恐れるのは「失敗」です。一度「失敗」したら敗者復活はないと思っているため、新しいことに挑戦してリスクを負うより、現状維持でそつなくいきたいと考えているようなのです。しかしそれでは、確かに挫折経験は減りますが、「失敗」に対する耐性も弱くなってしまいます。
 そのような彼らが学校を出て社会に飛び出したとき、「不安」でいっぱいになるのは当然だと思います。仕事は「大人のルール」で動いており、彼らは未知のルールに従って、見よう見まねで働く以上、当然、小さなつまずきや「失敗」が起こります。そしてその経験は、彼らにとっては自分自身を全否定されるほどの痛手なのです。「どうせ私なんか」と悩みを書き綴ってくる若者達は自信を失い、孤立感にとらわれていました。
 「悩み」=「不安」である以上、彼らが求めているのは「答え」より「安心」ではないかと私は思いました。そして、私が彼らの「不安」を「安心」に変えようとしたとき、気を付けたことが2つあります。

 1つは、若者達と私とでは、価値観も文化も違うということを常に心に留め、理解できなくても否定はしないというスタンスで臨んだことです。
 もう1つは、どれほど似通った悩みでも、相談者にはオンリーワン・メッセージで答えるようにしたことです。その人の横に立ったつもりで、視線の方向も高さも近づけた上で、私の目に見えたものを話そうと心掛けました。
 言ってみれば、私がしたのは、悩みの解決でもカウンセリングでもありません。彼らの「不安」を真摯に受け止め、漠然とした「不安」を理由のある「不安」に置き換えて対処可能とし、「安心」を得るお手伝いをしただけです。職場の先輩や上司なら、同じ環境にいる者として、もっとうまくできると思います。

 大切なのは、若者達の悩みを受け止める姿勢と、彼らにかける言葉を少しでも増やすことではないでしょうか。「否定しない」、「同じ視線に近づく」という姿勢を心掛けると、私達は自然と言葉を尽くし、丁寧に説明するようになります。
 また、職場の先輩や上司であれば、人を動かすのは頭で考えた理屈ではなく、具体的なイメージを伴った思いであることを経験から知っていることでしょう。「そんなことで悩むなんて社会人として失格だな」「悩む暇があったら働いて覚えろ」などという理屈で人は動きません。自分は若い頃こんな経験をして、こんなことを学んだ、自分にはその問題はこんな風に見える、という話をしてあげられないでしょうか。そして、心の奥底で「彼らが失敗したら自分が引き受ける」という覚悟を持ってください。その受け止める姿勢と、引き受ける覚悟が、働き始めたばかりの若者達を一歩前へ動かし、育てるのではないかと思います。
 彼らが彼らなりのやり方で生き生きと働けるように、先輩として上司として、是非手を貸してあげていただきたいと思います。それが、さらに後に続く若い人たちのために、幸せに働く道筋(キャリア)をつけることにつながるのではないかと思っています。