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Vol.14-3

『職業安定広報』2008年10月号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

自己概念に働きかける

長野マキ氏 画像

キャリアルネッサンス
代表

長野マキ

自己概念とは

 キャリアカウンセリングでは、クライエントの成長と適応を支援するために、クライエントの自己概念に働きかけます。自己概念とは、自分は優しい人間であるとか、人見知りであるといった、自分で自分をどう見ているかという概念的なイメージのことです。適切な職業選択や、仕事で個性を発揮するためには、自己概念が肯定的で、現実的であることが必要だと言われています。
 しかし、クライエントの中には、自己概念が否定的であったり、非現実的であるために、就職活動や職場適応がうまくいかない人もいます。

面接に通らない

 Nさん(24歳・男性)も自己概念に問題を抱えた1人でした。Nさんは大学を卒業後、保険会社に営業職として就職しました。しかし、思うように営業成績が上がらず、わずか1年で退社してしまいます。その後、半年近く再就職活動をしているのですが、面接がまったく通りません。どうしてよいかわからなくなり、相談室を訪れたのでした。Nさんの第一印象は、うつむきがちで、声が小さいため、いかにも自信がなさそうに見えます。カウンセリング中も、終始緊張した面持ちで、思うように言葉が出てこない様子でした。
 面接に通らない原因を一緒に考えるため、Nさんが準備した応募書類を見せてもらったところ、自己PRの項目に、「明るくて、積極的な性格」「チャレンジ精神がある」「顧客と交渉することが得意」と書かれてあります。まずこのことに、少し違和感を覚えました。なぜなら、目の前にいるNさんの印象が、自己PRの内容とはあまりにもかけ離れていたからです。
 ご本人いわく、就職活動本や面接対策セミナーでのアドバイスを参考に、面接に通りやすい人物像をイメージして書いたのだそうです。また、実際の面接でも、そういう人物を演じようと必死で努力していたことが語られました。

等身大の自分を表現する

 応募書類や面接の基本は、「等身大の自分を、わかりやすく、自分の言葉で表現する」ことです。しかし、等身大の自分を知って、それを表現することは、とても難しいことでもあります。確かに本やセミナーで得られる情報も就職活動には役立つでしょう。しかし、Nさんの場合は、「明るく、積極的で、意欲的な人は面接に通りやすい」という情報を意識しすぎるあまり、書類でも面接でも、まったく自分らしさを発揮できていないことがわかりました。
 問題はそれだけではありません。「今の自分では面接が通らない」、つまり「自分はOKでない」という自己否定的な見方を強めてしまったことで、自分に自信をなくしてしまい、その自信のなさが面接にも表れているようでした。

自己概念の回復

 Nさんに必要な支援は、まず何よりも自己概念を回復させることでした。それは、長所も短所も含めたありのままの自分を受け入れて、自分はOKであると感じることです。カウンセリングでは、コツコツと粘り強く努力することや、緻密に仕事を進めていくNさんの強みが整理されました。責任感が強く、誠実な人柄もアピールできそうな持ち味でした。また、これらの強みが生かせるのは、経理や会計、保険事務などの慣習的領域であることをフィードバックすると、実はNさんの興味も本来はこの領域にあり、営業は親や友人の影響で選択していた職業であることにも気付きました。
 こうして、徐々に自信を取り戻していったNさんは、面接でも過度な緊張が取れて、ようやく事務系職種で内定を得ることができたのです。