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Vol.15-4

『職業安定広報』2009年3月号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

資格を活かしたい

井田喜治氏 画像

横浜国立大学
経済学部 非常勤講師
キャリアコンサルタント

井田喜治

 働いている方々の中には、今の仕事には直接関係のない「資格」の保持者もいらっしゃいます。
 今回は、こうした「資格」を活かすことでキャリアの方向転換を検討中のDさんのケースをご紹介します。

Dさんの相談内容

 Dさんは30代後半で、企業の中間管理職をしています。仕事は忙しく、内容も高度化しているため、プライベートでも業務上必要な勉強に追われており、最近は体力的にも限界を感じ始めているとのことです。
  そこで、仕事内容を変えることで現状を打開できないかと考え、数年前に取得した「社会保険労務士(社労士)」の資格を活かした将来のキャリアプランを描くため、相談にいらっしゃいました。

「資格」をどのように活かしていくのか

 Dさんは、社労士の資格を活かした実務経験は全くなく、特に労働関係については自信がなさそうです。その一方で、年金制度については、他人にも自信を持って説明できるとのことで、年金アドバイザー3級の資格も既に取得されています。
 これまで勉強を重ねてこられたDさんにとって、今後は、資格をどのように実務に活かしていくかについての見通しを立てることが必要と思われます。

今の会社の中で「資格」を活かすために

 現時点でのDさんは、家族のことを考えると、会社を辞めてまで仕事内容を変えることには慎重で、できれば今の会社の中で資格を活かした職種転換を図りたいとのことですが、社内での相談相手についても悩んでいらっしゃいます。
 私が「上司にお話しされてはいかがですか」「人事にそのような相談窓口はありませんか」とうかがったところ、「上司は少々頼りないし、社内にこの話を知られるのも困る」と不安そうなご様子です。

Dさんへのアドバイス

 そこで、私はDさんに、次の点を中心にお話ししました。

  • 社内異動を正式に希望される場合、プライバシーへの配慮を求めつつも、社内の関係者への相談は必須であること。
  • 社内異動を正式に希望するための前提条件として、社内で年金業務を扱っている部門の業務実態について、事前に入念に調べておくことが望ましいこと。
  • そのうえで、現在の部署での業務と比較検討し、社内異動によって現在Dさんが抱えている問題点がどのくらい解決されるのか、慎重に見極めることが望ましいこと。
その後について

 私との面談の直後、Dさんは、社内の人事部門にメールで異動の相談をすることを思いついたそうです。しかし、よく考えてみれば、現在の仕事内容と同様、社労士関連業務も法改正等による変化が激しく、日々勉強が必要な点においては、現在の職場と何ら変わりがありません。唯一、体力的な負担が軽減できるかどうかが、判断の要となりそうです。
 そのことに気が付いたDさんは、メールでの相談をいったん延期し、社内での異動希望先について、より多くの情報を入手することにしたそうです。また、将来的な社外への転職も視野に入れ、地元の社会保険労務士会宛てに社労士の資格を活かした仕事について相談するなど、情報収集に努めるようになったそうです。
 近況報告にいらしたDさんが、「変化の激しいこれからの時代、何事にも一生勉強はつきものですね。プライベートでも仕事関連の知識の補充に努めたい一方、頑張りすぎて燃え尽きてしまわぬよう、自己管理できるようになりたいです。このことは、仮に転職しても、変わらぬ課題となりそうです」とおっしゃっていたのが印象的でした。