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Vol.16-1

『職業研究』2009年春季号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

自分を認める

島津和代氏 画像

日本体育大学 非常勤講師
湘北短期大学 キャリアサポート部 非常勤職員

島津和代

 平成16年からハローワークの若年者ジョブサポーターとして小・中・高校生のキャリア教育に関わり、昨年より大学生・短大生のキャリア教育に携るようになりました島津和代と申します。各教育現場では、様々な子供や若者たちが、私たちキャリア・カウンセラーに必要なことは何なのかを提示してくれるような気がします。
 ここでは一つ、若者らしい悩みを抱えた女子学生のお話をしたいと思います。キャリア・カウンセリングを通して未消化な自分の思いを他者に語りながら、そのことを価値ある経験として位置付けていったプロセスをお伝えします。

 A子さんは、すらりとした長身でハキハキと明るい受け答えをする、爽やかな印象の学生です。彼女の真面目さは、学内の就職ガイダンスの受講態度や振返りのワークで丁寧に感想を綴る様子からもうかがえました。就職活動が始まった頃、浮かぬ顔で来室したA子さんは、「どうも自己分析がうまくできません」と話し出しました。A子さんが持参した履歴書は、輝かしい記録と、努力がにじみ出るような心のこもった表現で、活躍してきた部活動の様子が描かれており、アドバイスなど必要ないくらいのものでした。
 A子さんは、「ゼミの先生も『このことをしっかりとアピールしなさい』と言ってくれるのですが、どうしてもうまく語れないのです」と俯いてしまいました。そこで私は、話せる範囲で部活動のお話を教えてほしいと尋ねてみました。
 バスケットボールが大好きで小学校・中学校と活躍し、特待生として高校に入学し、夢を持ち部活動を始めたものの、名門校特有の重圧と、特待生以外の部員との狭間で早くから悩んできたというのです。チームの中核として顧問や監督に期待され、それに応えるよう部長として活躍するA子さんは、「ついには疲れ果ててしまった。高校3年生の最後までやり通したにもかかわらず、達成感が全く感じられなかった」と言います。それでも、「自分が今まで打ち込み情熱を注いだものは、バスケットボールに他ならない」のだと。

 「凄かったね。よく頑張り通したね。大変だったでしょうに。この3年間バスケットボールを楽しむことはできたの?」と私が尋ねると、ポロンポロンと大粒の涙を流しながら、
 「ずっと苦しくて、ずっと辛かった」
 チームのみんなが仲良くなるようにといつも部員にも顧問にも気を配り、びくびくしていた。自分を応援してくれている家族にも弱音を吐くことができず、いつも一人だけで抱えていた。途中でやめたいと思ったが、「自分にできることがまだ残っているのではないか」という思いと、やはりバスケットボールが大好きだからという思いがそれに勝り、何とか頑張り続けたのだと言います。
 「大変な思いをしたけれど素晴らしい経験を積んだのね。本当にお疲れ様でした」の言葉に「こんなのでも、人に言っていい経験なのですか?」と言う彼女に、
・人との関わり方スキル
・気遣いのスキル
を思いつくままに書き出してもらいました。
 見事に、30ほどの項目があっという間に完成。
 けなげな自分をキチンと認めてあげる作業を終えたA子さんは、
 「今思うと顧問も他の部員も当時は気付かなかったけれど同じ方向に向かっていたんですね」
 結局、私は、履歴書を1文字も添削することなく、「自信を持って語りたい」と笑顔で退室するA子さんの目映い背中を見送りました。