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Vol.16-2

『職業研究』2009年夏季号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

自分が繋がる

島津和代氏 画像

日本体育大学 非常勤講師
湘北短期大学 キャリアサポート部 非常勤職員

島津和代

 B君の第一印象は「優しい雰囲気」を持つ礼儀正しく爽やかな笑顔の青年でした。希望する企業への志望動機を、自信を持ちキチンと語る彼ですが、どことなく心配が残るのです。
 時折家族の話が出てきます。「母は僕が大きな企業を希望しないと機嫌が悪くなる、僕自身も申し訳ない気持ちがする」「何としても兄弟よりも良い会社に入らないといけない」と思い込んでいる様子。B君は相談後に必ずやって来て結果を報告するマナー優等生でもありました。

 やがてB君は、第一希望の企業の最終面接まで進みました。ところが数日後、「残念ながら昨日不採用の知らせが来ました」とやって来た彼には、しょんぼりしたというよりも、むしろ初めて見せる芯の強さがありました。
 堰を切るように面接の様子を話し終えたB君は、「本当に入りたかったのです。全力を出しました。でも、まだまだ社会に通じるものではなかったのだと分かりました」と言い切ると、しばらく涙が止まりませんでした。なんと言葉をかけたらよいか、どうしたら次へのステップが踏めるような励ましになるのかしらと考え込む私に、B君は一呼吸すると、また語り始めました。

 「通知を受けた昨日の夕方、なぜか母親が働くスーパーに寄りたくなりました。自宅のある駅とは反対方向なので、一度も行ったことはありませんでした。いつも疲れたと言い、お客さんがどうの、職場の人がこうのと、母親が職場の話をする時は、正直言ってあまり良い気持ちでは聞けなかったですが……」と。B君は見つからないように入口からレジ係をしている母親の様子を見ていました。
 「家にいる疲れきった姿の母親でなく、おじいさんにとても柔らかく優しい笑顔で話をし、同僚にレジ場を離れることを伝え、わずか百円足らずの品物を親切に案内している。そしてそのおじいさんはとても嬉しそうに何度も母親にお礼を言っているのです。僕は、もう涙が出て涙が出て仕方がありませんでした」
 「そんなに不満ならパートなんだからやめてしまえばいい!と母親に向かって大声を出したこともありました。今は、とても恥ずかしい気持ちです。父親の分もと、僕たち兄弟を育てるために精一杯の働きをしている母親の姿を初めて見ました。活き活きと輝いている母親が、そこにはいました」
 「今度は、僕が頑張って母親を楽にさせてあげたいと心から思いました」
 「こんなことぐらいで何をくよくよしているんだ。ちっちゃいな、と思いました」

 きっとこの瞬間にB君は社会に繋がったのでしょう。一つだけ足りなかった心の中のピースが、カチッと音をたててはまり込んだのでしょう。そんな彼の瞳は、強い力がみなぎっているように見えました。B君は【自ら社会に繋がっていくこと】が何よりも大切なのだと私に教えてくれたようです。