メインコンテンツへスキップ

Vol.16-4

『職業研究』2009年冬季号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

自分をひらく

島津和代氏 画像

日本体育大学 非常勤講師
湘北短期大学 キャリアサポート部 非常勤職員

島津和代

 「私の志望動機を教えてください」
 浮かない顔をしながら、全く白紙の履歴書とライフラインシートを持参したD子さん。「次の面接で、こんな紙に私の人生を書いて15分説明してください、と言われたんですけど、15分も話すようなことなんて何もないんです」1センチのラインも記されてないシートを見せるD子さんに、自分自身のことを伝えるのだから白紙じゃ困ったわねと言うと、「書くことが何もないから相談に来たんでしょっ!」と急に不機嫌になりました。
 面接日を尋ねると、なんと明日の午前10時とのこと。ハキハキとしているのにもかかわらず、内心は不安で仕方がない様子。ともかくシート片手に1限目開始前に駆け込んで来たのでしょう。こんなときのためにと用意していた有名ボクシング選手のライフラインを紹介した新聞記事をヒントに、D子さんの思いを少しだけ聞き、再考を促しました。
 その後、お昼休みに再来した彼女は、今度はきらきらした笑顔で、「困っちゃった。あれから楽しかったこと、頑張ったこと、落ち込んだこと、いろいろなことを思い出していったら、書くことがたくさん出てきちゃって15分じゃ私の人生語りきれなくなっちゃいました」元気にライフラインの完成を報告しに来たのです。
 数日後、内定の連絡を受けました。

 若者は、ゆっくりとそして時には急速に、社会人としてのキャリアの成長を遂げていきます。学生生活、就職活動、卒業、入社と夢を掲げ、悩み、迷いながらもひとたび決めた自分の道を歩いて行きます。入社し、目の前の仕事やさまざまな人との関わりを必死になり一生懸命切り拓いていきます。仕事場で先輩や上司から「ありがとう」「お疲れ様」の声をかけてもらった瞬間に、社会人として認めてもらった気持ちになったと多くの卒業生が語ります。
 ある青年は「新人研修で『一番元気があり、声が大きくて良い』と社長に誉められ、入社式に代表として挨拶させていただきました」と、頬をポッと上気させながら嬉しそうに話を続けます。彼の言う「地獄の新人研修」は、自分の活動が必ず誰かの幸せや喜びになることを、知らず知らずのうちに悟らせてくれたようです。
 不安で臆病になっていた自分のことを赤裸々に伝えることでさえ、後輩たちには大きな励ましとなります。「君ならできるよ」という言葉よりも、「僕もそうだったんだ。だからこそこうして頑張れたんだ」という先輩の体験こそが、私にもできるかもしれない、私もやってみよう、という意欲に繋がる温かな励ましになっているのです。

 学生とのカウンセリングの気づきをご紹介しながら、私自身がキャリアカウンセリングを通してひとりの大人として成長させていただいたと感じております。成長の過程で見せる彼らの笑顔は、また、私に幸せを届けてくれます。改めてこれまで出会った一人ひとりの学生に感謝しています。最後に入社半年して来訪したE君からのお便りで締めくくりたいと思います。不在だった私に、はがき大の用紙いっぱいにメッセージを届けてくれました。

島津さんへ
元気にやってます。  
やりがいのある仕事で、毎日勉強の日々です。  
私が母校の株をバリバリ上げておきますので、良き後輩をよろしくお願いします(笑)
本当にありがとうございました!
Eより