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Vol.18-3

『職業研究』2011年秋季号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

見た目や経歴にとらわれない支援

伊東眞行氏 画像

ライフデザイン・カウンセリングルーム
(臨床心理士、2級キャリアコンサルティング技能士)

伊東眞行

離転職を繰り返して

 Cさんは茶髪に濃い化粧で現われ、話し方も子供っぽい印象を受けました。公的な就労支援相談を受けにきた20歳代半ばの母子家庭のお母さんです。
 経歴を聞いてみると、家庭の事情もあって高校を中退。飲食店でのアルバイト、掃除、製菓工場作業、機械部品箱詰め、文具製造などの仕事を転々としていたとのことでした。その後、結婚して子どもも生まれましたが1年で離婚。母子家庭の母になりました。母子家庭ゆえ、なかなか条件の良い仕事が見つかりません。なんとか頑張って仕事も子育ても続けていましたが、辛いことも多くて、一時期「うつ病」になり、通院服薬。行政の支援を受けることになりました。現在はうつ症状も回復し、働く意欲が出てきたとのことでした。Cさんのような、高校中退や母子家庭といった事例では、就労の機会も不足して失業期間が長引いたり、職種のミスマッチにより仕事が長続きしないことも少なくありません。
 Cさんは希望職種として、本屋やレンタルビデオ店の店員をあげますが、「何に向いているかわからないし、求人がありそうだから。とりあえず思いつきで…」とのことでした。このまま本人の希望に沿って仕事を選んでも、これまでの経過を繰り返すだけのように思われました。話し合うだけでは有効な方策が見つけにくく、客観的な適性評価が必要と判断しました。そこで、興味検査と性格検査、能力検査(GATB:厚生労働省編一般職業適性検査)を受けてもらったところ、最も重要な鍵となったのはGATBでした。

意外な適性に気づく

 GATBによれば、書記的知覚(文字・数字などの見分け)は「中」以上と優れており、言語能力・数理能力も平均程度で、事務系能力が良かったのです。他方、経験職に関係のある形態知覚・空間判断力や手先の器用さなど、造形的能力は非常に劣るという結果でした。経験はありませんが、簡易事務・事務系の現場作業(在庫管理や品出し、値札付け等)が向いていると推測しました。本人にとっても、事務作業が向いているといわれたのは意外なようでした。
 Cさんのような得手不得手がはっきりしているケースでは、仕事の向き不向きが明確に出やすいといえます。Cさんの離転職の多さやうつ病になった背景には、適性に合わない仕事選びもあったかもしれません。

未経験の事務職へ

 検査の結果をハローワーク職員に説明し、事務系の仕事でお願いしたところ、タイミングよく、老夫婦が経営している事務所で若い事務員を探しているとのこと。さっそく面接。孫のように思えるし、境遇を思えば雇ってやりたいとのことでしたが、仕事をこなせるかどうかわからないので、試しに働いてもらったうえで決めたいということになりました。
 その後、Cさんは試行的に働くようになりましたが、意外に事務処理がスムーズです。また、パソコンも教えてもらったら身についてきたので、まもなく本採用となりました。数か月後、Cさんから「その事務所で楽しく働いている」との近況を知らせるはがきが来ました。

アセスメントを活用して先入観をなくす

 Cさんのように、適性への理解もなく、経歴からステレオタイプな仕事選びをして、転職を繰り返す例は多いと思われます。また、支援する側も見た目や経歴にとらわれてしまいがちです。適性に合わない仕事を選び続けて、早期離職・自信喪失・就労意欲の低下などの悪循環に陥って、メンタル不全となる例も稀ではありません。
 本人の可能性を引き出すためにも、キャリアカウンセリングでは外見や経歴などからの先入観にとらわれない来談者理解が大切です。そのためにも、興味や価値観の確認と合わせて、GATBのような客観的な能力特徴をみるアセスメントツールなどを活用することも有効です。それによって、就労困難者であっても、より安定した就労自立に繋がっていくものと考えます。