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Vol.2-1

『職業安定広報』2004年8/21号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

クライエントの不安

大久保 功氏 画像

元日本キャリア・マスターズ
株式会社(日本DBMグループ)
研修事業部 主任研究員

大久保 功

 皆様こんにちは。再就職支援会社日本ドレーク・ビーム・モリン(株)グループの大久保と申します。ちょっと前までキャリアコンサルタントをやっていましたが、今はキャリアカウンセラー養成講座をもっぱら担当しています。キャリア関連のお仕事をなさっている方々が主な読者だとお聞きしていますので、そのつもりで与えられた「再就職の現状と課題」について、述べさせていただこうと考えています。よろしくお願いします。
 今回のタイトルは表題の通りで、再就職支援のクライエントの90%は、多かれ少なかれ、不安を抱えておられます。中には、ルンルン気分で会社を辞められて、次はどんな楽しい仕事に就こうかという方も担当しましたが、このような方はごく一部です。私どものところへ来られる方の多くは中高年で、形式的にはともかく実質的には会社都合の退職者が多いので、このことはさらに良く当てはまります。

 田中良子さん(仮名)を担当したときのことです。彼女は50代でしたが同じ会社に長く勤めていて転職の経験はなく、仕事も営業事務関係で特別の技能を持っていないとご自身は考えており、最初は暗い表情でした。私はそこに彼女の不安を感じ、まずは再就職に備えて、彼女にエネルギーを蓄えてもらうことが先決だと思いました。それで、これまでに彼女がやってきた仕事を、話してもらいました。その際、田中さんが行った仕事上の創意工夫を、質問などをしてできるだけ詳しく聞くとともに、いいなと思ったところを指摘したり、彼女の苦労を理解して伝えたり、効果があった場合に賞賛したりしました。そうしているうちに、秘書が「田中さんはこの頃明るくなりましたね」と言うほど元気になり、自身で仕事を見つけ、面接に行き、就職を決めました。最後の面談で、「はじめは不安でしたが、そのうちにここに来るのが楽しくなりました」と笑顔で言ってくださったことが、私には大きなプレゼントでした。

 もう一人思い出すのは、営業畑をずっと歩いてきた小野寺靖男さん(仮名)です。非常にしっかりした感じで、にこやかにハキハキ話をします。キャリアカウンセリングのプロセスに従って宿題を出すと、すべてを見事に期限前に完了させます。営業をやってきた方は逆境にあっても元気がいいなあと、感心していました。ところが5カ月くらい経った頃だったでしょうか、話の合間に小野寺さんが、「大久保さん、この再就職活動というのは、やはり不安が大きいですねえ。私は生来そういうことはあまり感じないほうですが、今回ばかりはすごいものがあります」とおっしゃり、私はびっくりしました。それとともに、小野寺さんにはあまり不安はないようだ、と軽率にも考えていた自分の誤りに気づき、冷や汗がどっと出る思いでした。

 再就職支援のキャリアカウンセラーは、目標を与えられていることが多いので、キャリアカウンセリングのプロセスを早く進めねばなりません。それに気を取られて、クライエントの不安への配慮を、忘れることがあります。しかし、クライエントの不安を取り除いて元気になってもらうことこそ、目標達成の早道である、と私は信じています。