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Vol.2-2

『職業安定広報』2004年9/21号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

再就職をしたくないクライエント

大久保 功氏 画像

元日本キャリア・マスターズ
株式会社(日本DBMグループ)
研修事業部 主任研究員

大久保 功

 再就職支援会社日本DBMでは、クライエントが再就職を果たして初めて、カスタマー企業から契約金の全額をいただけます。したがって、コンサルタントの業績は、何人再就職を果たしたかで測られます。
 通常は、クライエントも早く再就職をして、不安定なキャリア転機を乗り越えようと考えるので、カウンセラーはそれに歩調を合わせるか、さらに促進するように援助します。二人で、二人三脚の全力疾走をするような協同関係が成立します。 ところが、中には再就職を急がないクライエントの方がおられます。理由は様々ですが、それがクライエントの価値観です。中村哲夫さん(仮名)58歳も、そのような一人でした。お会いした初日から、「私は今まで30年以上一生懸命に働いてきました。ここで少しゆっくりして、見聞を広めたり、妻と旅行をしたりしたいと思いますので、よろしくお願いします」と言われました。再就職の意思がないというわけではないのですが、仕事を持つと長期間休むのが難しくなる場合があるので、再就職の前に少しぶらぶらしたい、ということのようでした。その言葉通りに、まず半月ほど旅行に出かけ、帰ってきてからはアビリティガーデンの半年間の研修を受けたいとおっしゃり、通い始めました。

 私は、最初は戸惑いました。再就職を促進するのがキャリアカウンセラーの役目です。中村さんのようなクライエントには、どのように対処したらキャリアカウンセラーの勤めが果たせるのだろうか、といろいろ考えました。離職期間が長くなればなるほど、働くのが嫌になったり、採用側がなぜそんな長期間遊んでいたのかと働く意思を疑ったりするデメリットが大きくなることも伝えました。しかし、中村さんは動じません。私の方には、中村さんの再就職支援の費用を負担しているカスタマー企業への、毎月の報告もあります。カスタマー企業は、中村さんの再就職が遅くなればなるほど、当社を、ひいては担当コンサルタントをますます低く評価するはずです。

 私は悩んだ末、キャリアカウンセラーの仕事を、クライエントがなるべく早く再就職するよう援助するのではなくて、クライエントの今現在のキャリアに関する意思決定が本人にとって最適になるように援助すること、と考えることにしました。こう考えれば、早く再就職したいクライエントには早く再就職するように援助し、中村さんのようなクライエントには、今現在の時間の過ごし方が有意義と思えるように援助する、ということになります。私の評価がそれにより若干低下したとしても、クライエントの中村さんが再就職支援の期間を有意義に過ごせれば、それでカウンセラーとして満足と考えるのです。この考え方により、私は中村さんの再就職支援を、終始楽しくすることができました。
 中村さんは、アビリティガーデンの研修を卒業した後、東京都のキャリアアドバイザー等の経験を経て、私が提案したダイレクトメールにより再就職されました。最後の1カ月は、業務の都合により担当コンサルタントが私以外に変わっていましたが、中村さんが当社に見える最終日には、わざわざ私に会いに来て下さいました。