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Vol.20-2

『職業研究』2013年秋季号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

選択肢は常にオープンにしておく

鷲見典彦氏 画像

さぬき若者サポートステーション
総括コーディネーター
2級キャリア・コンサルティング技能士

鷲見典彦

 B君は、大学卒業後、未就職のままニート状態となっていました。来所時の主訴は「面接がうまくいかない」でした。インテーク面談では、言葉のキャッチボールができず、突然違う話題になってしまう等、コミュニケーション能力に課題があることがわかりました。さらによく聴いていくと、働きたい職業は特にないが、営業がしてみたいとのことでした。
 自己理解のためキャリア・インサイトを実施したところ、能力の自己評価について、強弱がなく、全ての項目で高いことがわかりました。本人は、何でもできると思っているようでした。現状を理解し、今後の支援計画を立てるために、B君とこれから取り組む課題について共有を図りました。その結果、コミュニケーション能力の向上と、さまざまな体験に参加し、自己の気づきを得ることが当面の課題となりました。

コミュニケーション能力向上の支援

 ジョハリの窓を学び、他者からのフィードバックを受けること、自己開示をすることにより未知の窓が開かれるしくみを理解したうえで、傾聴トレーニング、アサーション・トレーニングを行いました。そして、会話の間や空気をつかむために、「茶道と心」セミナーに誘導し、挨拶や礼儀作法等の演習を何度も実習しました。
 声を出したり、話の内容を伝える訓練として「絵本のよみ愛」セミナーを受講し、本の内容を声の強弱と表情を使って伝えることができるよう取り組みました。それらの集大成として、幼稚園で園児に読み聞かせを行い、高評価を受けることで自信にもつながりました。自分の考えをまとめたり要約できるようにするため「新聞を読もう」セミナーを受講し、これらの取り組みにより、来所時よりもコミュニケーション能力が大きく向上しました。

さまざまな気づきの体験

 具体的な仕事のイメージをつかみ、職業選択の幅を広げるために、できるだけ多くの職場見学に参加することから始めました。当初は営業職にこだわっていましたが、製造業の仕事現場を見るうちに、あまりコミュニケーション能力を必要としない物づくりにも、興味をもつようになりました。
 簡単な事務仕事の体験をしたところ、落ち着きがなく、言われたことが理解できないという新たな課題が見つかりました。本人も事務や営業系の仕事は難しいと感じるようになり、関心があった食品製造業のジョブトレーニングに参加することにしました。ジョブトレーニングにあたっては、気づきという十分な効果を得ることができるよう「就業体験準備シート」「就業体験エントリーシート」「就業体験マナーシート」を活用し、事前準備を入念に行い、ジョブトレーニングの目標設定を明確にできるようにしました。
 ジョブトレーニング先企業では、事務系の仕事体験で課題となった「言われたことが理解できない」ということはなく、落ち着いて作業ができました。また、わからないことは自ら聞くことができ、採用可の評価を得ることができました。
 ジョブトレーニング後の発表会では、満面の笑顔でホワイトボードを使って仕事内容を説明したり、採用された場合の目標も明確に発言できるようになっていました。それから3年が経ち、今では職場を任されるまでに成長しています。十数通りの製造工程を覚え、自分で仕事の段取りをして、職場で必要とされる人になっています。

選択肢は常にオープンにしておく

 B君のように、就労経験がないままニート状態に陥っていたり、職業能力形成機会に恵まれていなかった場合、社会でのコミュニケーション能力が低下していたり、自分が何に向いているのか、職場で求められる能力や働き方がわからない場合が多くあります。
 また、夢のような職業を希望していたり、特定の仕事に固執していることもあります。積極的に動けるようになり、行動範囲が広がれば、予期せぬ出来事に遭遇することも多くなります。B君の場合、食品製造の仕事に出会うことが予期せぬ出来事でした。
 キャリア・コンサルティングにおいて、将来の職業生活設計を立て、これに即した職業選択を行おうとしていても、偶然の出来事により、キャリア・コンサルティングの過程とはまったく違った職業に出会うことがあります。そしてその職業に就き、天職のように働いているB君がいます。
 基本的な支援ができていれば、予期せぬ職業に遭遇し、それを選択することも可能とする幅をもつことも大切だと思います。キャリアの選択肢は常にオープンにし、職業的スキルは学べるものという前提で仕事に取り組み、偶然を必然に変える取り組みの連続が、キャリア形成をしていくことではないかと思っています。