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Vol.20-3

『職業研究』2014年冬-春季号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

時をつくる支援

鷲見典彦氏 画像

さぬき若者サポートステーション
総括コーディネーター
2級キャリア・コンサルティング技能士

鷲見典彦

 さぬき若者サポートステーションでは、平成20年の開所以来、ニート状態にあり、さまざまな困難を抱えた若者の職業的自立を支援してきました。支援にあたっては、キャリア形成の6ステップを基本とし、各ステップでVRTカード等を活用したアセスメントやキャリア・コンサルティングを行うと共に、各種支援プログラム、職場体験とを組み合わせ、PDCAサイクルを回しながら理解が深まるようにしています。
 ニート状態にある若者にとって、6ステップを進むこと自体が難しく、進路決定は容易ではありませんが、うまくいっているケースに共通していることの一つに「時をつくっている」ということがあげられます。時をつくるとは、言い換えればチャンスを掴むということになります。時をつくり、チャンスを掴むには、行動するしかありません。たとえすぐに結果が出なくても、行動した分だけ進路決定に近づいているのです。しかし、クライエントが自信を失っている場合、行動することは容易ではありません。
 C君(28歳男性)は、高校を2カ月で中退後、飲食店で3カ月、清掃業で3カ月働き、その後、無業の状態が12年続いていました。ケースワーカーの紹介でさぬき若者サポートステーションに来所した時は、母子家庭で生活保護を受けていました。とても動ける状態ではなく、アプローチを探すため、①感情、②認知、③行動の3点に絞り、見立てを行いました。
 その結果、一歩を踏み出す自信がない、コミュニケーションが取れない、人に対する不信感という感情があり、どうせできないという認知で動けない状態であることがわかりました。自尊感情回復のため、原因追究はせずソリューション・フォーカスト・アプローチ(SFA)を活用し、リソースを探しました。そうすると、ハローワークには毎週決まった曜日にこつこつと通っている(言われたことはこつこつできる)、清掃業の時、困っている同僚の仕事を率先して手伝ったことがある(気配りができる、思いやりがある)等、多くのリソースが見つかりました。そのうえで過去にうまくいっていたことの振り返りも丹念に行いました。
 コミュニケーション能力向上のため、高知県の黒潮若者自立塾(当時)の協力を得て、私と共に宿泊付の体験研修に参加しました。それらの取組みにより、C君の自尊感情は徐々に回復し、「できない」という認知も「できかもしれない」に変化していきました。3カ月後には、セミナーに毎日参加できるようになっていました。

一歩を踏み出せない

 支援を開始してから9カ月間の来所回数は169回にのぼり、30種類の支援プログラムを受講しました。その間に多くの仲間が進路決定をしていきました。C君は16社の職場見学に参加、進路決定の入口まできていましたが、どうしても一歩を踏み出すことができませんでした。
 働く不安と生活保護を失う不安から立ち止まってしまい、仲間が進路決定していく中で、取り残され、自信をなくしてしまっていたのです。突然、サポステに来ることができなくなり、臨床心理士と共にカウンセリングを行い、目標の再設定を行いました。

時をつくる

 C君には、橋渡し訓練(平成21年当時)の情報提供を行いました。コミュニケーションの基礎訓練等を含む1カ月の橋渡し訓練に参加することで、3カ月の座学と1カ月の企業実習を含む計4カ月の職業訓練を連結して受講できることを説明しました。さらに、セーフティネットとして緊急人材育成・就職支援基金より「訓練・生活支援給付金」を受けて訓練を受講できること、その間、生活保護の受給を止めてみることをケースワーカーも交えて話しました。
 言われたことはこつこつできるというリソースを活かし、C君は再び行動を起こしました。ジョブカードを作成し、職業訓練受講の準備に入りました。職業訓練(日本版デュアルシステム)を出席率99%で修了し、PCの資格も取得しました。生活保護の支給が一旦停止したことに伴い、自分で家賃を支払い、日々の生活のやりくりも行いました。その経験から生活保護に頼らない生き方に向けた意欲が高まり、自動車免許を取得して就職の幅を広げる希望をもてるようになりました。

行動支援の大切さ

 C君の支援期間は17カ月、来所回数は263回にのぼりました。ジョブカードの評価シートを活用し、就職活動も行いました。現在は生活保護から脱却して印刷工場で働いています。高校中退、就業経験6カ月、無業期間12年、生活保護受給と困難な状況を抱えていたC君を支えていたのは、行動でした。
 感情、認知へのアプローチが行動支援につながり、先回りせず、適切なタイミングで必要な情報提供をしていく。これからもクライエントに寄り添いながら時をつくっていく支援をしていきたいと思っています。