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Vol.21-1

『職業研究』2014年秋号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

キャリアカウンセリングのポイント①「障害はどこにあるか」

小中理江氏 画像

株式会社LITALICO
就労支援事業部研修センター
CDA(キャリアデベロップメントアドバイザー)

小中理江

 私は現在、障害のある方の就労支援をしています。ご本人との面談を通じながら、「どういった職に就きたいと考えているのか」「その仕事を通じてどんな人生を送っていきたいのか」を一緒に考えていきますが、キャリアカウンセリングのポイントの一つに、「できないこと」への捉え方があるのではないかと感じています。
 ここで、「ICF(国際生活機能分類)モデル」についてご紹介させていただきます。ICFは2001年にWHOで採択された健康の構成要素に関する分類です。「生活機能」を「心身機能・身体構造」「活動」「参加」の三つのレベルで考え、背景因子を「環境因子」と「個人因子」の二つにわけて、「生きることの全体像」を示す考え方です(下図)。

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 例えば、「ご本人の『障害が原因』で仕事が『できない』」という考え方は、「心身機能や身体構造」に障害があるため、さまざまな「活動が制限」されて、仕事に「参加できない」となります。しかし図を見ていただくとわかるように、矢印が双方向になっていることにご注目ください。逆に考えると、「活動が制限されず」「仕事に参加できる」状態が作れるのであれば、「障害はなくなる」と考えることもできるのです。そしてその背景因子として、「個人因子」と「環境因子」があり、両面から人生全体の満足度を向上させていくことが可能となります。この「環境因子」には、物理的な環境だけでなく人的な環境も含みます。
 つまり、「できないこと」をすぐに判断するのではなく、「○○があれば、○○ができる」と捉えなおし、いかにご本人の可能性を高めていくかがポイントになると言えます。

 ここで架空事例を挙げながら、考えてみたいと思います。
 Aさん(25歳男性/発達障害)は、大学を卒業後、短期で派遣やアルバイトの仕事に就いており、今回の就職に当たっての希望は、「とりあえず就職がしたい。『やりたい』ことは特に思いつかない」という方でした。そこで経歴の詳細をヒアリングしたところ、工場のライン作業をされており、「仕事自体に不満はなかったが対人関係でうまくいかず、自信をなくした」そうです。対人関係で起きた問題を具体的にうかがってみると、チームリーダーの人に突然指示された仕事が理解できずパニックを起こしてしまい、それが原因で対人問題に発展したとのことでした。

  • ライン作業自体は苦痛ではなかった(むしろ同じことを集中して行うのは得意で、ミスも少なかった)
  • 予定していた仕事以外のことを突然言われると、パニック(混乱)を起こしてしまう
  • 複数の仕事を同時に行うことは苦手

 この内容だけを見ると、「仕事をするのは少し難しいかも…」と思われませんか?
 では次に、ご本人と一緒に、物理的・人的サポートを含めて「どうやったら働けそうか」という視点で考えてみます。

  • 口頭での予期せぬ仕事内容変更の指示はパニックを起こすが、当日の朝に「今日の仕事内容」という形で文章化した紙をもらえると、落ち着いて仕事を行うことができる
  • 複数の仕事を同時に行うことは苦手だが、一つひとつ指示を出してもらえれば対応ができる

 よって仕事の指示の方法や障害特性をご理解いただける環境だったり、またご本人の強みを活かした「集中力」や「正確性」が求められる仕事を探していくことで、就労への道も開かれていきます。
 このように、「○○があれば、○○ができる」という視点が大切であり、そのためには支援者自身が固定の概念に縛られず、フレキシブルな発想で考えていく必要があります。
 注意点として、「障害特性」という言葉は固定的な印象を与えることも多く、実際は同じ障害名であっても人によって特性は異なります。障害に関する知識も大切にしながら、そこに縛られることなく「その人自身がどんな方なのか」を考えることは、大切なことだと感じています。