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Vol.25-3

『職業研究』2020年No.1より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

とらわれの中から解き放つこと

佐藤寿子氏 画像

2級キャリアコンサルティング技能士
国家資格キャリアコンサルタント

佐藤寿子

 「とらわれ」という言葉はクリエイティブと対極な表現ではありますが、面談でよくこの影響を感じることがあります。

とらわれからジャンプしたCさん

 「女の子はアルバイトでいい」
 ある日、卒業後の進路について尋ねた際の返答でした。私が今でも衝撃を覚えるフレーズの一つです。明るいCさんから出てきた言葉でしたので、かえって印象的でした。家庭で交わされる何気ないセリフだったようで、深い意味はなかったのかもしれません。
 その後には「私は勉強苦手だし…」と続き、就職活動全体に対してネガティブな固定観念にとらわれている様子でした。当たり前ですが、「勉強ができる、できない」がこれからの評価にすべてつながることはありません。
 私はCさんに自分の良さを振り返って話をしてもらうことや、ファイナンシャルプランという視点も含めて働くことの意味を掘り下げ、一緒に考えることを心掛けていきました。
 その後、彼女は少しずつ自分を見つめながら就職活動を始め、一般企業の内定を獲得しました。
 専門学校で一般職に就職するのは、王道ではないと見られることがあります。好きなことを仕事にする場合、専門職が一般的ではありますが、学びや気づきを深める中で考えて出した選択、ご本人の納得がいく選択こそ、「正解」ではないのでしょうか。
 ただ、その結果に至るまでのプロセスで消化できない気持ちや、選択した際にためらいを覚えているのなら、そこを解消していくこともカウンセリングの意義の一つだと感じています。
 就職先でも彼女の持つ明るさや仕事に対する姿勢への評価が高く、半年後には企業内で使用する映像の作画を任されることになりました。持ち前のイラストセンスを生かして高評価をいただいたようです。
この映像が完成した際に、報告も兼ねて久しぶりにCさんが来校しました。笑顔で説明してくれる彼女の顔を見て、専門領域ではない企業でもクリエイティブなセンスは生きること、自らの得意分野を生かして企業に貢献できることの素晴らしさを改めて知り、とても尊いと感じました。

自分らしさを就職につなげたDさん

 夜間部のDさんは、イラストレーションもデザインも得意な学生でした。作品展を通じて企業からの接触を望まれて話したことが出会いのきっかけでした。 夜間部の学生は昼間部以上に学び直し層が多く、社会人や大卒学生など背景も多岐にわたります。彼女は、以前いた学校で経験した就職活動の思い出が辛い様子でした。そこまで追い込まれてする就職活動とは何なのでしょうか…。
 私は寄り添いながら、ポートフォリオのチェックや自己PRの確認をしていきました。
 Dさんは在学中もフリーランスで仕事を受けていましたが、先述の作品展を通じてつながった企業の先で出会った方にスカウトされ、今では、キャラクター制作からグッズのデザインまで幅広く展開している企業でメインデザイナーとして活躍しています。また、個人のプロジェクトも本格的に動き始め、公私共にとてもご自分らしいキャリアに邁進しています。描いたイラストや一人のクリエイターとして発表した作品がどんどん世に出ていく様を見て、頼もしく感じています。
 この活躍を通じて、就職活動の波に乗り切れなくても、実力とチャンス次第で、どんどん羽を広げて加速度的に夢を叶えていく姿に心を動かされました。

様々なとらわれと多様性

 「多様性」というと留学生や障がい学生など、特徴がはっきりしている方をイメージするかと思いますが、私は広く捉えており、日本人学生の中にも大いにあると感じています。加えて、直線的な生き方ではなく、幅広い生き方を知り、認めることも多様性を理解する一つになるかと思います。
 違いを踏まえて、どう支援していくか。何度もやり直すことができる、ご自分らしい人生への一助となるように取り組んでいきます。