メインコンテンツへスキップ

Vol.4-3

『職業安定広報』2005年6/21号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

答えはクライエントが持っている

土肥眞琴氏 画像

(社) 大阪府経営合理化協会
人財開発部マネージャー

土肥眞琴

 私が最初に1対1の相談を行ったのは、2001年。勤務先が主催する合同企業面接会の会場で、個別相談のブースを設けました。当時は、まだ「キャリア・カウンセリング」という名称は一般的ではなく、相談を希望する学生の多くは、いわゆる「就職相談のための個別面接」という認識だったと思います。事実、相談の大半は企業情報の提供依頼や、履歴書・自己PRの内容確認など、具体的なアドバイスを求めるものでした。
 「この仕事をやりたいと思っているのだけれど、どうも自分の気持ちに確信が持てない」、「このまま就職してしまって本当にいいのだろうか」といった、曖昧で漠然とした、でも本当はその人の内面に深く関わるような問題を抱えている学生に対して、キャリア・カウンセリングを軸とした支援を行いたい、という意気込みばかりが先行していた私は、(まあ、1回限りの相談なんだからこんなものかもしれない、これなら1人50分も相談時間とらなくてもよかったなぁ)と少々拍子抜けしながら、相談を続けていました。

 そんな中、「集団面接でどうしても気後れしてしまう。自己PRの内容に自信が持てない。どうして落とされるのか分からない」という相談申込みをしてきた女子学生がいました。
 第一印象は、前髪が顔の半分ぐらいにおおいかぶさるような感じのためか、消極的で、どことなくシニカルな印象でしたが、話し始めてみると、敬語もきちんと使えるし、落ち着いてハキハキとした応答をされます。(自己分析、企業分析がちゃんとできていないのではないだろうか?)と思い、それまでの受験企業、志望動機などを確認したところ、「私にとって就職活動は逃げ場なんです」という返答。そこから、自己分析の段階で疑問を感じることがたくさんあり、それを解決したいと思いながら、一般的な就職活動のスケジュールに乗っかることで、深く考えなくてもすむかもしれないという「甘え」もあって、「面接に行くだけ」の活動を続けていること、最近心身共に疲れてきて、「とにかく休みたい」と思いながらも踏み切れないことを、胸のつかえを吐き出すかのような勢いで、話されたのです。相談の最後には、「最後まで聴いていただけて、ありがとうございました。話してみて、気持ちが整理できました。いったん休んで、自己分析で引っかかっているところから考え直します。今日は本当に相談して良かったです」と、晴れ晴れした表情できっぱりと「宣言」して行かれました。

 「答えはクライエント自身が持っている」、「新米カウンセラーにできることは、せめてクライエントの邪魔をしないこと」という産業カウンセラー養成講座での教えは、正にこのことか、という体験でした。
 この後も、相談過程で「実は……」と自分の本音を話し始める学生、アルバイト社員から正社員登用への挑戦に成功した男性、やみくもな超難関資格試験挑戦から自分を解放し始めようとした女性など、「本来自分が持っている答え」を自分で引き出すことができた、引き出そうとし始めた瞬間に関わることができる度に、「人間の存在への愛おしさ」を感じずにはおれません。
 教育機関、行政、企業など、立場・環境は異なれど、「キャリア開発支援」に携わる人達は、皆同じ感動・喜びを感じておられると思っております。