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Vol.7-3

『職業安定広報』2006年6月号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

ニート状態の若者への保護者相談を通じた支援

橋本光生氏 画像

「育て上げ」ネット 
キャリア開発事業部 主席研究員

橋本光生

 私の所属するNPO法人「育て上げ」ネットでは、前回このコーナーで紹介した保護者セミナーと同じ目的で、ニートの保護者を対象とした相談を実施しています。
 ニート状態にある若者ご自身が「育て上げ」ネットの事務所を一人で訪れることはほとんどありません。多くの場合、お母さんがわが子のことについて相談に訪問されます。こうした保護者の相談に丁寧に応じることがニート状態のご本人への支援につながると考え、力を入れています。

1 通常の相談の進め方

(1) ご本人(若者)の状況についてお話をお聴きする

  • 受容的な態度で親の気持ちをじっくり聴きながら、子ども(若者)の状況を把握する

(2) 現在の就職や若者への支援機関などの利用のしかたについてお知らせし、相談に乗る

  • 子ども(若者)の状況に合うと思われる支援機関(若者自立塾・ヤングジョブスポット・ジョブカフェ・ハローワーク・就労支援NPOなど)についての情報提供を行う
  • 支援機関(支援者)と若者との“相性”の重要性を説明する
  • 当事者である若者への情報提供方法等の相談に応じる
2 よく見られる事例

 相談内容は本当に様々ですが、比較的多い事例のうちの一つを紹介します。
 あるお父さんは次のように言われました。「セミナーと保護者相談を受けて、自分の息子への接し方について気づくことができた。息子の話をじっくりと聞くことで、少しずつ会話が楽しくはずむようになってきた。自分の息子への接し方が変わったのだと思う。以前は親として『息子に自分が成功してきたのと同じような方向に同じような進み方で進んでほしい』という気持ちが強かったが、今になって息子が私と違った方向に行きたかったということが、よくわかりました」その後息子さんご本人もいろいろな支援機関に行き始め、自分の力で進んでいくエネルギーが出てきているとのことです。

3 保護者相談の効果

 前回このコーナーで紹介したセミナーに参加された保護者に対しても、セミナーと同時期に、あだちヤングジョブセンターにて、私も含む「育て上げ」ネットのキャリアカウンセラーによる相談を実施しました。その保護者相談の相談件数は31件、このうち、ご本人が31歳未満18件、31歳以上13件、男性28件、女性3件、アルバイト経験ある方が17件、アルバイト経験ない方が14件。保護者相談参加の6割が母親お一人の参加で、残り4割の中に父親、若者本人と保護者、両親での参加が含まれます。前回のこのコーナーでも書きましたが、保護者セミナーと保護者相談を合わせて受けられることで、相談を受けた31件のうちの10名の若者が支援機関につながることができた(2006年2月末時点での人数)のが成果です。以前から、20代の若者にとっても保護者の影響が大きいと思っていましたが、考えていた以上にその影響は大きく、親の期待に応えられない自分に深刻に悩むケースも多くありました。「親が気づくと、若者は変化する、動き始める」という手応えのようなものを私自身は感じました。
 ご本人がどのような若者かを保護者から聞かなければいけない(多くの場合、ご本人には会えません)こと、各ご家庭に複雑な事情があることなど、容易でない取り組みではありますが、ご理解いただき実施をされる自治体なども増えてきています。この取り組みを参考にしていただければ幸いです。