メインコンテンツへスキップ

Vol.8-2

『職業安定広報』2006年9月号より

キャリアカウンセリングの様々な現場で活躍される方々によるリレーコラム。

キャリア教育とは「生き方教育」

上 篤氏 画像

ウエ・コンサルタンツ 代表
大手前大学 教授
上級産業カウンセラー

上 篤

 大学を取り巻く環境の変化とともに、就職を意識したキャリアカウンセリングだけでなく、低学年からのキャリア教育の必要性が叫ばれています。
 キャリア教育とは生涯教育であり、自分らしい生き方の追求を支援する教育です。単なる就職支援ではなく、社会変化に対応できる力の涵養を目指す「生き方教育」なのです。
 長い人生の中の大学生活4年間に焦点を当て、若年層の抱える課題に対してどのようなキャリア教育を実践すればいいのか、「Study for Life(生涯にわたる、人生のための学び)」という教育理念のもと、試行錯誤している大手前大学の取り組みをご紹介します。

1 キャリア教育の考え方

 キャリア教育とは「生き方教育」である。ライフキャリアの考え方を基本とし、環境が変化する中「自分らしい生き方」を自分自身に問いかけられるような大学生になるための「考える時と場」の提供をする。

  1. キャリア教育は教養教育を推進する機能を果たす。自分のキャリア形成に少しでも答やヒントらしいものが見えてくると学習意欲が高まり、自分らしい生き方をするためには、どのような知識・技術を身に付ければよいかを考えはじめる。
  2. 自分らしく生きるということは、自分勝手に生きていいということではない。自分だけでなく他者の個性や特徴を重視すると同時に、社会のニーズとの接点を持ちつつ「自分作り」をすることが大切である。
  3. そのためには職業観・勤労観の涵養や法律・道徳・モラルなど社会規範の認識が重要である。
  4. キャリアとは個々人別々のものであり、多人数の教育のみならず1:1の個別キャリアカウンセリングを重視する。そのためにはキャリア教育を推進するに際しては、ファシリテーションスキルやカウンセリングスキルが必要となる。
  5. キャリア教育の担い手は全教員であり、キャリア教育をキャリアデザイン学科のみにとどめて置くことなく全学に展開するとともに、デジタルコンテンツ化し広く社会への浸透を図る。
  6. 自分自身のキャリア形成のみならず他者のキャリア形成支援ができるよう、キャリア教育カリキュラムを構築する。
2 キャリア教育の目標

 4年間を通じて人間関係能力や意思決定能力など「変化対応能力」を身に付け、単なる知識だけではなく実践・行動ができるようにするとともに、各年度の目標を次のように設定している。

  • 1年次 自分の特徴(価値観、興味、能力)に気づき、肯定的自己概念を形成する。
  • 2年次 自分を生かせる職種など将来展望や社会について考える。具体的な職業ではなく、職種と結びつきそうなコアコンピテンシーを見つけておく。
  • 3年次 職業観・勤労観の涵養とともに具体的に目指す職業について的を絞る。
  • 4年次 就職活動という実践の場を通じ社会を改めて認識し、自己概念を再構築する。
3 キャリアカウンセラーの役割の変化

 環境変化とともにキャリアカウンセラーに対して求められる役割が広がっており、種々の知識やスキルが必要となっている。

  1. 1:1のキャリアカウンセリングのみならず、キャリア教育・キャリア開発研修などグループや大勢の人達を対象にファシリテーションやインストラクションができること。
  2. カウンセリングルームに留まることなく組織の中のキーパーソンとの連携を図り、組織介入・環境調整ができること。
  3. キャリアのみならずメンタルヘルスの知識を持ち、医療関係者へのリファーのタイミングを適切に判断できること。