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2026.01.15New

企業研修の現場から vol.13-1

組織に価値を提供する企業研修を実施するために
~徹底的に考え抜く醍醐味
著者近影

株式会社Jストリーム 管理本部 人事部長

田中 潤

たなか・じゅん●日清製粉株式会社・株式会社ぐるなびでの人事経験を経て、2019年より現職。週末にはキャリアカウンセリング協会にてGCDFやキャリアコンサルタント更新講習のトレーナーなども務める。日本キャリアデザイン学会副会長、一般社団法人経営学習研究所理事、にっぽんお好み焼き協会監事。

 今回から本連載を担当させていただく田中潤です。私は、長年人事責任者を務めていますが、人事の仕事のコアは人材開発だと思っています。そして、最近は人材開発畑の人事責任者が増えているように感じます。本稿のテーマである「研修」は人材開発の重要な手段の1つです。

人材開発担当者の心構え

 効果的で生産性が高く、意義のある研修を提供することは重要です。研修主催者は、参加者の研修時間分の人件費だけでなく、例えば優秀な営業パーソンを研修で1日拘束することによる機会損失までをよく意識する必要があります。1つの研修に組織は大きな投資をしているのです。ですから、それをペイして余りある価値を提供しなければいけません。

 このような心構えを持てば、人材開発担当者は、自ら自然に学び続け、ネットワークを拡大し続けるはずです。インプットと内省なくして、良きアウトプットはありません。そして、1つひとつの研修を真剣にデザインします。前年の研修の単純な焼き直しなどはしません。もっと良く、もっと意味のある研修にという思いを胸に、必死に知恵を絞り続けるのです。

最も効果的な研修設計とは

 例えば、新任課長研修を例に考えてみましょう。多くの組織では、年度初めの4月に新任課長が任命されます。昇進直後の4月に新任課長を集め、丸1日や1泊2日の新任課長研修を提供する企業も多いでしょう。でも、それが本当に効果的なのか、もっとよいやり方はないのかを考えるのです。

 4月に大掛かりな新任課長研修をやることは、よい動機付けにはなるでしょう。しかし、合理性には乏しいといえます。まだ課長としての仕事をやったことがないところに、いろいろな理論や考え方を学んでも実感が湧きにくいのです。実感が湧かないと、研修内容の吸い込みが悪くなります。のどが乾いた時に飲む水が一番おいしいのです。ある程度、課長としての仕事を実践したところで、「うまくいかない」とか「もっと良くやりたい」といったことを切実に思った時にこそ最も効果的な研修ができるのです。

 私のいる企業のケースです。新任課長研修を分割し、3時間程度の研修を月に1度、4カ月にわたってやるようになりました。必要とされる時に必要なコンテンツを提供するのです。これはオンラインで研修ができるようになったからこそできることです。


●第1回(3月中)「評価と目標管理」

 4月になると評価期間が始まります。ですから、評価と目標管理の制度・仕組み・やり方・注意点などは事前に理解しておく必要があるのです。

●第2回(5月中旬)「マネジメント基礎研修」

 いわゆる管理職研修です。基本的なマネジメント理論、メンバーのモチベーション維持・向上策、管理職としてのあり方・スタンスなどを扱います。事前に課題図書も出します。1カ月半、とにかく必死に課長をやってみて、いろいろな思いを胸にして研修に臨んでくれます。対話中心ではない研修はオンデマンドでよいと割り切っているので、すべての集合研修は対話中心です。1カ月半の経験を対話の中で振り返り、同じような悩みを持つ同期の課長に共感し、そして学びます。4月初頭に同じ内容の研修をやっても、かなり効果は低くなるはずです。

●第3回(6月上旬)「1on1研修」

 メンバーのことを思って1on1をやってはいるものの、「思いが伝わらない」「思いを引き出せない」といったコミュニケーションの課題を実感した頃に実施します。1on1のメカニズムを理解し、実践に落とし込む場を提供します。

●第4回(7月上旬)「メンバーのキャリア支援」

 中間面談時にキャリア面談を行う制度が導入されているので、その直前に研修を用意します。極めて実践的なものになります。


 このやり方には、大きな副次的効果もあります。毎月、同じメンバーが集まることにより、同期の課長同士の横のつながりが自然とできることです。毎回、かなり深い対話をするため、お互いの関係性は深まります。研修が終わっても、組織を超えた共通課題の相互相談や、成功事例の横展開が生まれ、このつながり自体が継続的な学習と課題解決の場となるのです。

 研修設計に「勝利の方程式」はありません。他社事例や世の中の流れを意識しつつも、自社に合い、最も効果が出るだろうと思われる方法を日々探究し続けることが研修担当の醍醐味なのです。そして、そのために私たち自身こそが学び続ける必要があるのです。